フィクション・コース初等科開講にむけて
黒沢清(第一期主任講師)
我々は映画作りのノウハウを伝授しようとは考えていない。我々が目指すのは最強のインディペンデント映画作家の養成である。だからこの講座を選んだ時点で、あなたはただ「映画を撮りたい」と主張するだけではすまなくなった。最初にあなたを待ち受けているのは「どんな映画を撮りたいのか」という質問である。あなたはこの問いに答えなければならず、「ほう」と感心されるかもしれないが、「どうしてそんなものが撮りたいのか」とさらに問い詰められるかもしれない。
これがまず第一のステップである。
我々はただ映画を撮りたいだけの人物に何も言う言葉を持たないが、ある種の映画を撮りたい人に対しては、それはどうやれば撮れるかをいうことができる。さらに、おそらく我々は無礼にもあなたが撮ろうとしている映画が果たして正しい映画かどうかについても言及するだろう。そしてそれをもし正しくないと判断した場合、「そんな映画撮ろうと思うな」とまでいうであろう。
また、少し時間が経つと「あなたが撮ろうとした映画は正しかったが、あなたが撮った映画は正しくない」とも言うかもしれない。勿論あなたが考える正しさと我々が考える正さとは真っ向相対するものであるかもしれず、こうなれば論争は必至だし、そのいずれが勝利するかはひょっとすると歴史の判断に委ねられることもあると思う。だが我々は、どこまでも「この世に正しい映画というものが存在する」と主張し通すだろう。
両者にとって大変な試練が待ち受けている。しかしこれがコミュニケーションというものだし、あなたと我々との出合いの意義はそこにしかないと思うのだ。(1997年10月)