脚本コース第7期は、本年度より講師を担当される脚本家の金巻兼一さんと宇治田隆史さん。お二人ともシナリオを教えることは初めてということで、主任講師の高橋洋さんを交えて、ご自身のことやシナリオに対しての思い、受講する方に向けてどんな風に講義を進めるかなどを伺いました。

kyaku1左から宇治田隆史さん、金巻兼一さん、高橋洋さん

—そもそもお二人は脚本家になりたいと思ったきっかけは何だったでしょうか?

金巻兼一(以下金巻):おはなしを作りたかったからというのが一番大きかったですね。以前母親から聞いた話で、二つ下の弟がやっと喋れるぐらいの頃にあやしを任された僕は、テレビで聞いた童話語りのお姉さんの話を一語一句そのまま話していたらしいです。宇治田さん、一番最初にシナリオみたいなの書いたのっていつですか?

宇治田隆史(以下宇治田):大学受ける前に、とりあえずシナリオってなんだとよくも分からずに書いたのが初めてでした。

金巻:でも気づかないうちに触れたりしていたのはありますよね。僕は中学の時、友達と「太陽にほえろ!」に熱狂していて、みんなでラジオドラマみたいなのを作って。その時、僕が台本とディレクションを担当したんですよね。結果的に色々触っていたんだなと思います。

高橋洋(以下高橋):人生で初めて読んだシナリオって何ですか? 僕は高校の時に文化祭で映画を作らなきゃいけなくて、当時「とりあえずシナリオを書くんだよな」ぐらいしか知らなくって。シナリオを探すためにキネ旬を開いたら「フレンチコネクション2」の再録シナリオが掲載されていたのが最初でした。当時は再録シナリオが何かも知らなくて、これがシナリオなんだよなと思い込んでて。

金巻:僕はなんだろう……。月刊ドラマとかを買っていたのでそこで何かを読んでるんだと思うんですが。繰り返し読んでたのは市川森一さんの「サハリンの薔薇」ですが……それはある程度知識がついた時ですから初めてはないですね……。宇治田さん初めてって覚えてます?

宇治田:本屋で買ってきた、それこそ市川森一さんの「傷だらけの天使」の単行本だったと思います。住んでいたところが田舎だったんで、月刊シナリオも月刊ドラマも知らなくて。シナリオってどこで読めるんだろうと思っていたら、古本屋でたまたま見つけたんです。

金巻:ありましたね! そういえば、僕はポケットサイズの金城哲夫さんと上原正三さんのシナリオ集をよく読んでました。ドラマを読むというよりも書き方の参考にしていた気がします。あの当時結構シナリオ集みたいな形で結構売ってたんですよね。

—金巻さんは、具体的に脚本家になりたいと意識したのは何かタイミングはあったんでしょうか。

金巻:たまたま池袋の名画座で観た、デヴィッド・クローネンバーグ監督の映画の衝撃がすさまじくて。

高橋:それはなんですか?

kyaku_kanemaki金巻:『ラビッド』です。2本立てで、実は『フレッシュ・ゴードン』を観に行ったんです、エロエロのSF。そしたらすごくつまんなくて(笑)。もう1本あるからついでにと思って観たのが『ラビッド』。そしたらその緊張感といい、静かなドラマ運びといい、すごくハマってしまって。一番シビレたのはラストのスタッフクレジットなんですけど、死んだマリリン・チェンバースをゴミ収集車に放り込んで、そのゴミ収集車が去っていくところをゆっくり追う中、静かにタイトルロールが流れていく。すごい美学だなと思っちゃって。そこから退廃の美学ばかり追っかけていくわけですけど(笑)。

高橋:それがおいくつぐらいですか?

金巻:20歳ぐらいでしょうか。大学生です。

—そこですぐシナリオを書きたいと。

金巻:ちょっとタイムラグあるかな……。当時音楽の方でも売り込みをしていたんですがそっちの方でネットワークができなくて、その時にもう一つやりたいことでもあったシナリオの方で吹聴してみたら、たまたま所属していた美術サークルの一つ先輩のお姉さんが東映動画(現東映アニメーション)の演出家だったんです。その一方で、一緒にやってたバンドのキーボードの叔父さんが、その後師匠になる渡邉由自さんだったんですよ。それで両方とも紹介してもらって。まだシナリオセンターで習ったぐらいのレベルだったのですが、すぐに東映の方は持ち込みをするようなことになって。一方で由自さんのところでは習作を持ち込んでそれに赤を入れてもらってというのをやっていました。東映動画ではプロデューサーの横山賢二さんに持ち込みをしていたのですが、その方がすごいなと思うのは、ど素人である僕の手書き原稿の裏にちゃんと直すべき箇所を書いてくれたんです。箇条書きでびっしりと。嬉しかったので、すぐに修正して出して……3回ぐらいやり取りしたところで、—そこまでは仲介を入れて渡してたんですけど—、直接横山さんから連絡いただいて、そのあと直したものがデビュー作になりました。

—伺っているとトントン拍子な感じがしてしまったのですが……

金巻:いやいやいやいや。それからがもう大変で。横山さんに呼ばれた時も「面白いから呼んだんじゃなくて、何度も直すバカはどんな顔か見たかったら」って。冗談ではあるんですけど、結局それ1本で仕事は無くなって。あとで聞いたんですけど、その後持ち込んでいたプロットがダメで、書けないからって切られてたんですよ。でもこちらは本気ですから、みんなにも言っちゃってますから(笑)、その当時のメインライターの星山博之さんが(東映動画のある)大泉学園の駅前の喫茶店で仕事をされていたので、会えるかどうかはわからない状況で、1ヶ月に2~3回挨拶にだけ行っていたんです。そんなことをやっていたら、半年ぐらい経ったある日、横山さんから連絡があってまた呼んでもらったんですね。後々聞いたら星山さんが『まだやる気があって来ているから、もう1回だけチャンスあげたら』と言ってくれたそうなんです。喫茶店に通った半年は長かったですよ。いつ来るか分からない星山さんを、昼ごろ入って夕方まで紅茶1杯で粘って待つわけですから。星山さんご本人は優しい方だったので、自分の休憩時間になると呼んでくれて、世間話をしてくれて。それが終わったら僕は邪魔しないように帰る。精神は鍛えられましたね(笑)。

kyaku_ujita—宇治田さんは大学からシナリオを書き始めたのでしょうか?

宇治田:映画をちゃんと考え始めたのは大学からですね。映画を撮るには脚本というのが必要で、自分で書いたらあまりにひどくって。なんか違うというのは漠然とあったんですが、何が違うのかも全然わからなかったんですね。当時同級生に脚本家になりたい子がいて、彼女の脚本を読ませてもらったら、それがすごくうまくって。何がうまいって、会話のリズムがすごくうまかったんです。自分はなぜ出来ないんだろうというところから始まって。そこから1〜2年ずっと書いていましたね。とにかくリズムを作りたいという一心でやっていた気がします。それが今の基礎にはなっています。

高橋:大阪芸大時代の先生は誰だったですか?

宇治田:中島貞夫先生に4年間、ずっとですね。中島先生は結構放任主義だったので好きにやれって感じでした。大雑把だったけど、いつも的確なアドバイスをいただきました。

—大阪芸大では生徒がたくさん撮っているというイメージがあるのですが、宇治田さんはどうだったのでしょうか。

宇治田:僕もいっぱい撮っているというイメージで入ったのですが、全然撮ってなかったですね(笑)。普通に大学と変わらないのかもしれないです。入学してすぐ班に分けられたんですが、もう一つの班の方はアクティブでしたね。一方こちらはアクティブではない人が集まっていたので、1年目はそんなに……。そのうちだんだん授業に行かなくなりましたね。なのでその間に書いて。あと自主映画なんとかやりたいなとはずっと思っていました。

—1、2年生はずっと本を書いていて、3、4年生で「撮るぞ!」と

宇治田:そうです。で、単純に、現場に向いてないなって。

—そうなんですか? 大学の卒業制作が『悲しいほど不実な夜空に』ですが、この作品が初めての映画作品だったんでしょうか。

宇治田:いえ、その前に自主映画を何本かやってはいるのですが、現場がどうしても好きになれないな、って実感してしまって。

—実際に宇治田さんは卒業後、そこから脚本家デビューまでというのは

宇治田:自分の年表だとそうなるんですけど、どうしようかなと考える時間が長かったですよね。自分で方向が定まらないというか。現場が苦手というのもずっとあったし。実務的なことより、書く方が楽しかったというのがありましたね。その定まらない時期にちょうど『アンテナ』(2003/熊切和嘉監督)で声がかかったという感じです。2001年だか2002年頃。それでこの方向でやろうとなったんじゃないかな。

—お二人のプロデビューのお話を伺いましたが、実際に脚本家としてお仕事をされ始めて、面白かったこと、つらかったことってありましたか?

金巻:時期によって違いますが……新人の頃ってことですか?

—はい。アニメーションの世界はいっぱいライターやシリーズ構成がいて、という感じなのでしょうか。

金巻:テレビの場合は、当時だと1年ものがほとんどだったので、そうすると一作品に4~5人は脚本家がいて、それを取りまとめるシリーズ構成がいて、という感じですね。先ほどちょっとお話しした、二度目のチャンスとして呼ばれたのが四コマ原作の「かりあげクン」で、30分3本立て(サザエさんのようなフォーマット。一回のオンエアに3話放送すること)でした。こちらは崖っぷちですから、初稿の直しで大泉に呼ばれたら、頼まれもしない次のプロットを持っていって……結果的に最多本数を書かせてもらいました。その時に同年代で参加していたのが小山高生さんのお弟子さんたちで。小山さんの顔があるから、優しいんですよ、現場の対応が。野武士の僕とは違う(笑)。うらやましかったです。でも逆にそれを利用してやろう!と思いました。鍛えてもらおうと。あと、本数を書かせてもらえたので、実験もこっそりやらせてもらいました。ト書きの書き方を毎回変えてみたりとか。今回は体言止めだけにしてみようとか、じゃあ次はセリフだてにして動きのト書きは全部後ろに置いてみようとか。それが実際にどう演出されるかを観て効果を確認して。結局全話180本近くのうち58本書かせてもらって、そこでの実験の結果、自分の中で一番落ち着く形が作れたんですよね。1本が短くて、しかもおかしなことをやっても受け止めてくれるおおらかな土壌があったからなんですけど。

—宇治田さんはどうですか?新人の時は

宇治田:不安ばかりはずっと続いていましたね。何をしても安定はしないじゃないですか。

金巻:宇治田さんはシナリオの直しに対するスタンスはどんな感じですか?

宇治田:最初の頃は良くもわからず聞いていました。だんだんと「その修正はこっちのほうがいいんじゃないか」と思ったり言うようになりました。でもそこでの齟齬はずっと続くっていう。

金巻:難しいですよね、どう監督と折り合いをつけるかという。

宇治田:難しいです、プロデューサーであったり。もちろんそれぞれの立場や考えがありますし。

金巻:新人の頃って、知識も能力も劣っているわけですが、どうやら僕がやろうとしていることは間違ってはいなかったみたいなんです。でもそれを説明できないんですよね、まだ知識がないから。だから上手にそれを直しに反映できないジレンマがありました。これは学ばなければダメだということで、デビューしてからものすごく勉強しましたね。

宇治田:そこは僕もずっと思っていました。伝えるのに10年ぐらいはかかったと思います。本当にごく最近ですね。もっと豊富なボキャブラリーがあったり、冷静さがあればよかったんですけど、そこは持ち合わせてなかったんだなと。

—脚本コース生を見ていると、直しって一番最初にぶち当たって、そこの壁からなかなか抜けえないという印象があります。

kyaku_hiroshi高橋:それはフィクション・コース生*も、自分の監督作のリライトに入った途端に物凄い迷走を始めるというのがありますね。リライトをしていくうちに、最初に書いたことを見失ってて、最初に書いた面白いところから捨てていってしまう。

*フィクション・コース:映画監督を目指す人が受講するコース

宇治田:そこは捨てちゃダメですからね。

高橋:でも恐ろしいぐらい同じ症例が次々と(笑)。

宇治田:わからなくはないんですよ。いろいろ言われていくとどんどん曖昧になっていって、よくわからない形になっていく。それを僕は思考のジャングルと呼んでいますけど。そこに入ることは今でも当たり前にあるなと。そこからどう抜け出るかというのは、もう苦痛でしかないんですけど。あの手この手で永遠とやって、やっとこさたどり着くというのはありますね。

金巻:会議で出たアイデアや意見をそのまま入れちゃって、調整しようとしておかしくなるっていうこともよくありますよね。だから後輩には「プロデューサーがこうしろって言っても、間違ってたら君が止めろよ」って言うようにしてます。逆らうのが怖いし、原稿を通したいんでそのまま入れちゃう人が結構いるんですよね。でもその結果、全体の調整ができなくて破綻しちゃうという。

高橋:フィクション・コース生の場合だと、監督作*に選ばれたものは講師陣が面白いと評価したシナリオだから、当然嬉しいわけですよね。だけどみんなが面白いと思うところって、意外と本人が無意識で書いている。だから「ここが面白いよね!」と言っても、みんな目が泳いでいる。「あ、面白いですよね」とついうなづいちゃって、どうしていいかわからなくなっちゃう、ていう。

*フィクション・コースではシナリオと演出ビデオを提出し、講師が選んだ作品を修了制作として映画を制作するカリキュラムがある。

金巻:無意識の個性ですよね。

高橋:そうなんです、まだ意識的にコントロールできない段階なんですよね。

宇治田:自分も経験しましたね。

金巻:やりたいことが個性だと思っているうちはまだアマチュアですから。自分にやれることがわかって、それが個性になったらプロなわけで。意外と自分が好きではないことが武器になってる人、多いですよ。

—そういうことは、書きながら見えてきたんですか? それともプロデューサーや監督から言われて気づくことなのでしょうか?

金巻:言ってくれる人もいるんですけど、自分で探す方が多いですよね。

宇治田:そうでしたね、書いていくうちにだんだんと。僕の場合は最初から明確にあるわけではなく、すごくぼんやりするものがあって、それを見失わないように、だんだんに形にしていくんですね。かといって、自分のやっていることが正しいかというと、打ち合わせして、言われて間違いに気づくこともよくあるんですよね。たとえば全然伝わってなかったりとか、その部分を修正をしてみたり。シナリオってどこまでいっても(他者はもちろんのこと、自分自身との)対話でもあるなというのはずっとあって。そこはいつも難しいなと思うところですね。

金巻:表現のキャパシティって要求されますよね。同じことを伝えるのにいろんな方向いろんな方法を持ってないと。実は監督が言っていることと合っているのに、監督の脳内の言語と合っていないってことがあるんですよね。それで、同じことを違う言い方にしてみると「そうそうそれそれ!」となる。

宇治田:ありますよね。すごく難しいです。

金巻:やっぱりこの仕事って、ディスカッションというか、コミュニケーションですよね。結局押し黙ってしまうとうまくいかない商売だと思います。

高橋:監督によっては、このト書き一行書いておかないとこの人絶対にわからないとか、この人なら書かなくても大丈夫とか(笑)、ありますよね。

金巻:監督に合わせてト書きとか変えますからね(笑)。

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—今回お二人とも初めて教えるかと思うんですけど、それにあたって、こういう事を伝えていきたい、こういうことを教えてみたいなどありますか?

金巻:まず基礎なんで、技術をどう体に入れてもらうか。頭でわかってるだけじゃダメじゃないですか。例えば「金槌はこう使うんだよ」と言葉で言ったところで、実際に体で使ってみないとわからない。あ、斜めじゃダメなんだ、とか。そういったことを体に入っていくように教えられたらいいなと思っています。

宇治田:それに尽きる気がします。あとは金槌を使う楽しみですよね。

金巻:そこで打ち方を変えてもいいわけです。使い方がわかっていればいろいろ変えられるので。

宇治田:そういうことがあると知ってもらって、まず入り口に立ってもらえればいいのかなと思いますね。

金巻:まずプロとアマチュアの違いをわかってもらうだけでも違うと思います。

高橋:僕としては、教えるということが自分にとっても美味しいものにもなってほしいと思っているんです。僕は大学でも教えてるんですけど、大学で教えてる時は、ここよりももっと映画に対して無意識の人たちを相手にしているので、「ああ、これが一般観客なんだ!」と思うわけです。自分の生活圏外の人に触れてるということが、大学で教えることで初めて体験できたんですよね。この人たちが映画館に来たり来なかったりする人なんだなというのが理解できたんです。一方映画美学校で教えてる時は、今のエンターテインメントってなんなんだろうというのを一緒に考えられる場になってるからやってられるのかなと。お二人は自分が美味しい思いをするというポイントでいうと何かありますか(笑)?

金巻:今までひたすら突っ走ってきてふと振り返ると、自分のことって理論化してないじゃないですか。それを見返すチャンスではあるなと思っています。

高橋:小中(千昭)さん、村井(さだゆき)さんも確かにこの仕事を引き受けていただいたときにそういったことをおっしゃっていました。

金巻:自分の経験を理論化、体系化することで、見失っていたこと、間違っていたこと、慣れで無意識に本道から外れてしまっていたことなんかにも気づけるんじゃないかと思います。

宇治田:それはカリキュラム組むときに考えましたね。

金巻:まだ題目だけしか具体的にしていないので、中身に関しては毎日考えています。そうすると不意に、こういうふうにして体に入れていったんだというのを思い出す。じゃあこれをうまく言語化して伝えてあげればいいのかなと繋がっていくんです。

—今回のカリキュラム、読んでてドキドキしました。

金巻:すごく対照的で面白かったですよね。言葉は少ないんですけど、宇治田さんのやり方と姿勢、僕はすごく共感するんですよ。変な話ですが、僕、宇治田さんの講義、受けたいんです(笑)。

宇治田:僕も「音楽!まさに!」と思いました。音楽は大事ですね。

金巻:本当にそう思います。難しいことを言っているのではなくて、結局本当に脚本は音楽で。宇治田さんがリズムを求めていたとおっしゃっていましたが、それがないシナリオって本当に読みづらいですよ。監督にも絶対に通じないですもの。

宇治田:それだけは無くさないようにとずっと思いますね。作品によってリズムって変わるんですけど、それがつかめない時ほど辛いものはないですね。

金巻:ノれる、弾んでる、という反応はそこだと思うんです。読みやすさから来る。

宇治田:僕もそう思います。金巻さんの「音楽」という単語の強さはやっぱりそこだと思いますね。

 

kyaku2高橋:ところでお二人はシナリオに行き詰まった時どうしていますか? 時々ガイダンスで、主に書いた経験のある人から質問が出るんです。

金巻:その時の状況によって対処法は違いますよね。でも、何かに迷って、ここがなんか違うな~と思いながら、そのアンテナを立てたままテレビ観たり雑誌読んだりしていると、不思議とそこに答えがあったりするんです。

高橋・宇治田:はいはい! ありますよね!

金巻:どうでもいいバラエティでどうでもいいタレントが言った一言が「ああ!それそれ!」ということになったりして。

宇治田:全く関係のないものが一番いいですよね。僕がその時に一番やらないのは映画を見ることでしょうか。

金巻:入り込んじゃダメなんですよね。

高橋:「手塚治虫の仕事場」という手塚さんの仕事場に定点観測カメラを入れてずっと撮っているNHKのドキュメンタリー番組があったんですけど、手塚さんが筆が止まると、手前にある小型テレビのザッピングを始めるという。完全にわかってやってるんですよね。ずっと目を見開いたままずーっと画面を晒していく。

金巻:何か答えがあったんでしょうね。よく「煮詰まったら全てを忘れて無になる」という人がいるんですけど、それは違うと思うんです。絶対に引っかかってるものがあるので。

高橋:何かセンサーが鋭くなってるから、拾うんですよね。ランダムで見てもパッと吸い上げる。

金巻:それだけすごい集中力になってる。悩んでいることを本当に忘れたら戻るまでにものすごい時間かかりますから。

高橋:じゃあ、明日締め切りの時に詰まったらどうしますか?

金巻:ただひたすらワープロの画面を見つめてるんだと思いますね。

宇治田:僕は少し横になって、もう一回起き上がります。

高橋:その状況怖いですよね。いってみれば、引き出しを開けたら空っていう(笑)。あの追い詰められた感じってすごいですよね。

金巻:泣きそうになっても誰も助けてくれないですからね。

高橋:この時って脳みそから血が流れてるイメージが浮かぶんですよね。そんな心境(笑)。

金巻:追い込まれたらすべてのアイデアの箱を開けるしかないですよ。

宇治田:でも全部空なんですよね……。

高橋:カラカラの雑巾を絞ってるみたいな感じですよね。

宇治田:とりあえず全部閉じて、一回寝て、で何か出てくるんじゃないかという幻想に囚われますよね。

金巻:僕の友達に煮詰まったら書いた物を全部消すってやついましたけどね。

宇治田:全部消すんですか!

金巻:アニメだと30分ものだから何とかなるというのがあるんですが、最後の方のクライマックスで、「ダメだ!もうこれ以上でない!」という時に全部消しちゃう。で、頭から書くと一気に最後までいけたりするそうで。

宇治田:全部ではなかったですけど、一回やったことありますね。気に入らない分岐点ぐらいから全部捨てて。

金巻:どっかでこだわり持ってるから止まっちゃってることあるんですよね。僕も途中から構成を組み直したりすることがあります。

宇治田:そうすると意外とするっといったりすることありますね。

高橋:見切り発車ってありますか? プロットが最後まで行き着いてないんだけれどもあと3日しかないんでシーン1から書く、みたいな。何の当てもないけどシーン1から書くしかないみたいな時。

金巻:声優のラジオ番組を担当していた時、その公開イベントで、急遽前日になって、現場を仕切っていた声優事務所のマネージャーに「うちのタレントで朗読劇をやりたい」って言われたことがあって。しかもリハーサルはその日の夜1回しかできないと。そうなるとSEもまともに用意できない、ライティングも凝ったことはできない。そのくせ尺は20分は欲しいと。当然断ったんですが、いろいろと事情もあってやるしかない状態になって、仕方が無いのでブチキレながらも、まっさらな状態から2時間でリーディング台本を書き上げたことがあります。結果的にはその一連の事件が無意識のテーマになって、おはなしは青春ものでしたが、根っこのドラマは事件のメタファーになっていましたね。その狂ったまでの集中力のおかげか、いい仕上がりでした(笑)。

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—最後に迷っている未来の受講生に向けてメッセージをいただけると嬉しいです

金巻:やって見たいと思ったら飛び込んでみるというのが一番なんじゃないかと思います。ガイダンスでも言いましたが、自分探しでここに来てもいいわけです。学校である以上、交わす言語は学校のカリキュラムになりますが、その中で自分を見つけてもらっていいわけですし、やってみたら脚本が面白くなった、ということになるかもしれませんし。答えは常に1つじゃないですからね。

高橋:みんな悩んで当たり前です。多分僕たちが教えられることは、いかに悩む時間を短縮して、自分で決められるか、ということですよね。結構長考状態になってしまう人っているんですよ。ずっと悩んで悩んで悩んで課題が出せない、自分でハードル上げちゃって動けなくなっちゃうという。そういう人たちに「悩むことはわかるけれども、大事なのは悩むより決めることなんだ」ということを如何に伝えられるかだなと、よく思うんですよね。

金巻:100のものを出そうと思うんですかね。失敗したくないということなんでしょうか。批判されたくないとか。

宇治田:そこはハードル低くて全然問題ないんですけどね。

金巻:そうならば課題は自分が全然好きではないもので書けばいいと思います。であればそんなに思い入れがなくサクサクと進みますから。

高橋:なるほど(笑)。

金巻:それも含めて、講義を通してヒントをあげたいと思っています。我々は脚本家なので脚本家の言語でしかしゃべれないですが、その中から何か見つけてくださいということです。

宇治田:きっと見つけられると思います。

脚本コース第7期初等科、4月21日(金)開講!
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