フィクション・コース第10期初等科に入学し、その後プロの作り手となり、現在はフィクション・コースの講師でもある三宅唱さん。そんな三宅さんと受講生時代に出会い、フィクション・コース第19期初等科では三宅さんとともに講師を担当したフィクション・コース/脚本コース講師の高橋洋さん。
そんなお二人が脚本/監督を担当した『呪怨:呪いの家』が現在Netflixで配信中です。映画美学校時代のこと、『呪怨:呪いの家』、さらには映画づくりについてなど、多岐にわたってお話いただきました。

—まず、今回お二人が(『呪怨:呪いの家』で)脚本家、監督として作品をつくるに至るまでの流れを聞いてみたいと思うんですけれども。三宅さんが(映画美学校に)入られた時の担当講師は西山(洋市)さんですか?

三宅 はい、僕は西山さんのクラスでした。京橋時代の映画美学校で。高橋さんは僕の一個前、9期の講師でしたよね?

高橋 そうですね。

三宅 ちょうど、『狂気の海※』(※第9期フィクション・コース高等科コラボレーション作品)をつくられた時期ですよね。

高橋 そうですね、高等科だから。

三宅 京橋のあのロビーの空間で、いろんな人が慌ただしそうに準備をしているのを見ていました。大畑(創)さんとか。

高橋 大畑くんがいた世代ですね。

三宅 高等科生たちが準備している様がものすごく本格的に見えて、なんだか強そうで、凄いなあと横目に思っていました。

—在学中はお話されたこととかはなかったんですか?

三宅 話したことないと思います。

高橋 そうですね。噂は聞いてたんですよ。初等科の課題でめちゃくちゃ冴えたの撮ってきた人がいるって。僕はものはみてなかったんだけど。へえ、そんな人いるんだって。そんな噂を聞いてたんですね。

—そうなると、初等科を出られて……『スパイの舌※』(※三宅唱監督、短編映画。第5回CO2オープンコンペ部門にて最優秀賞を受賞)は課題でしたっけ?

三宅 5分課題など、いくつか課題で撮ったモノを15分の一本の短編にまとめ直して、CO2オープンコンペ部門に出しました。それが最初の長編の『やくたたず』につながっていったっていう経緯がありますね。

—高橋さん、『やくたたず』の話を何回かされてましたね。「(映画)表現論※」(※映画美学校フィクション・コース講義「映画表現論」)の講義とかで取り上げてて。

高橋 そうだね。そのときも三宅くんに来てもらって。

—『やくたたず』は公開当時もご覧になったんですか?

高橋 どこで見たんだったけな。記憶が曖昧なんですけど。スクリーンで見たんですよ。それで、おおっ!て盛り上がって。それで表現論のときに三宅監督に来てもらって、話を聞こう、みたいなのがあったんだよね。そのときが直接三宅くんと話した最初?

三宅 だと思います。

—「戦争映画である」ということを(講義内で)おっしゃってましたね。

高橋 アレクセイ・ゲルマンの映画にすごく似た感触を受けたんだよね。『やくたたず』を見たときに。それでこういう演出ってどういうふうにして生まれてくるんだろうってことが知りたくて、三宅監督に聞こうと。そういう表現論でした。確かシナリオももらって、そのシナリオもみんなで事前に読んで。

—確か初稿をいただいた気がします。

三宅 そうです。まだ『最初の商売』というタイトルのシナリオでした。

—あれは講師をされる前でしたっけ?

高橋 うん、うん。

三宅 たしかそれをやった後くらいに、僕も初等科の講師を担当することになりました。

—じゃあ、18期からですかね。

三宅 そうだと思う。

—18期は高橋さんは……

高橋 18期って誰がいた期?

三宅 穐山(茉由)さんたち。

高橋 じゃあ僕は担当してないね。

三宅 (一緒に講師を担当したのは)19期だけか。

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—ご一緒に講師をされてたときは、お話はされてたんですか?

高橋 講義の時っていうのは三人が一斉に、上映したばっかりの課題について受講生に向けて三人三様に受講生に向けて感想を喋るっていうのがもっぱらで。その時はもう、そういう講義方式だったでしょ?お互いが受講生に何を言うのかっていうのは(その時)聞いてるんだけど、その後飲みに行ったりしてもあれなんだよね。結局受講生と話す時間の方をメインに考えなきゃいけないから。講師同士で密に話すってことがあまりなかったっちゃなかった。飲みに行ってもバラバラだったりするんだよね。いや、そんなことないか。どうだったんだっけ?

三宅 高橋さんとはたまに……、あ、あの中華屋。なくなっちゃった中華屋。

—興和軒ですね。

三宅 そうそうそう。興和軒行って、基本的には受講生としゃべる時間だから、その中で同じ話題でたまに高橋さんとも話したりっていう、いくつかの場面は覚えてます。

高橋 興和軒だったね。もう一人の講師は誰だったっけ?

—大工原さんです。大工原さんがあの、『冥婚LOVE※』(※フィクション・コース第19期初等科、ミニコラボ作品)の映画を。

三宅 そうですね。

高橋 そうかそうか、思い出してきました。

 

—その後は(お二人は)あまりお会いしたりすることはなかったんですか?

三宅 20192月にアテネ・フランセ(文化センター)でフレデリック・ワイズマンの特集上映があったときに、高橋さんとトークをしましたね。

高橋 うん、そうなんですよね。

三宅 それが久しぶりだったかもしれない。

高橋 その前に、多分19期の話よりも前にさかのぼっちゃうんだけど。高等科で三宅くんがコラボ(※高等科コラボレーション)撮りませんかっていう話があって。確かあれ何期?

—16期ですね。

高橋 その時はまだ、三宅くんは講師で来てなかった。

—そうですね、来てなかったです。

高橋 コラボの監督として参加してくれないかって話があって。そのとき、高等科生と三宅くんがコラボする企画を募る時に、三宅くんが出したお題が「自分はエンターテイメントをやりたい」と。っていうのがあったんですね。限りなくジャンル映画的なものがやりたい。それは、今まで自分が作家のタイプっていう風に周りに認識されて作家的な作品を作ってるけど、全然違うことをやってみたいっていうね。
思いっきりエンターテイメント、低予算でつくれるエンターテイメントの脚本を誰か書いてほしいなっていうことで。僕はそのとき初めてその話を聞いて、「ああ、三宅くんってそういうモチベーションだったんだ」ってすごく面白かったんだよね、そのスタンスが。ただその16期の高等科コラボは不成立だったんだけれども。そのあと自主ゼミで撮ったんだよね?

三宅 そうですね。『4時45分』という題で、幽霊が主人公で、一度だけ1分間現世に戻れるという設定で、その1分で何をするか他の幽霊たちと事前にリハーサルをしたりして、いざ本番を迎えたらてんやわんやなことになる、みたいなコメディ。

高橋 三宅監督のそういうスタンスっていうのはずっと僕の中に残っててですね。それで、フレデリック・ワイズマン、あれはまあアテネの松本(正道)さんのひらめきキャスティングだったんだけれども。なんでフレデリック・ワイズマンでこの二人なのかさっぱりわからなかったんだけれども(笑)トークはトークで成立して、ですね。
久しぶりに会って軽く話をして、もうその時にNetflix版の『呪怨:呪いの家』の脚本は書いてて。それでー瀬(隆重)さんが、「誰か監督はいないのか」って。一瀬さんの要望としては「まったく新しい人、今までホラーを撮ったことがなくてもいいから、誰かいないのか」っていう。それで、ちょうどアテネで会ったばっかりの三宅くんのことがハッとひらめいて。で、これ、ものすごく大胆な発想だけどひょっとしたらこれはあるかもしれない。それで、一瀬さんに紹介したんだよね。
最初に三宅くんにホンを読んでもらって、それで興味あるっていうことで、それを踏まえて一瀬さんに「いや、三宅くんっていう人がいるんだけど」って言って。それで『きみの鳥はうたえる』とかを見せたんだよ。あれ、ポートフォリオか何かであったんだよね。

三宅 そうです。僕の過去作などのリンクをまとめた簡単な資料をそれをお送りして。

高橋 それを見たら一瀬さんがすごく気に入って、乗ってきて。それでNetflixのプロデューサーに『きみの鳥はうたえる』とか見せたら、Netflixのプロデューサーもすごい気に入ったんだよね。僕は「いや、三宅くん、ホラー撮ったことないけど本当にいいの?」って。(笑)

三宅 僕もずっとそう思ってましたよ。 「どういうこと?責任取れないよ?」って。困った時は「あなたたちがいいって言いましたからね?」って言おうと思ってた(笑)

高橋 普通、こういう斬新な、大胆な思いつきって大概会社の常識的な判断の前に敗北することが多いんですけど。今回は「ええっ?」っていう感じで話がスルスルと、最初の思いつき通りにすんなり行ったっていう不思議な例でした。

三宅 クランクインまでも信じられないくらいスピーディー。僕のなかでは今まで一番早かったですね。そもそも時間がなかったっていうのもあるかもしれませんが。

高橋 ああ、なかったのか。

三宅 シナリオを受け取ってから約半年後のクランクインでした。

高橋 そういう出会いだったんですよ。アテネの(松本さんの)ひらめきキャスティングがなかったら、ひょっとしたら……

三宅 違う人だったかもしれない。

高橋 うん。16期のコラボの時に受けた印象っていうのを僕は思い出せなかったかもしれないですね。見えないとこで松本さんが映画史を動かしている(笑)。

 

—脚本について、監督と脚本家で話ってされたんですか?

高橋 『呪怨:呪いの家』のホン直しの話?まあでもホンできちゃってからは、そんなに。1回くらい?M君が少女を殴ったりするとこの描写どうしようかとか細かいところの話し合いはしたけど、そんなに大きく変えるとかっていうのは……

三宅 なかったです。終盤で一箇所、ロケ地の都合で物理的にかなり難しい場面があって、そこは改稿の相談をしましたが、ほかは特にあまり話してません。あ、あと小田島のパートナーの話をして、出番やセリフを増やしてもらいました。

高橋 むしろ一瀬さんが、最後の最後まで粘って。終わり方とかもね。

三宅 あ、そうですね。ラストシーンは現場中にできあがってきましたもんね。

—三宅さんが、以前表現論で「そろそろ自分以外の脚本で撮りたい」みたいなことを言っておられたような気がします。

三宅 生意気なこと言ってますね……恥ずかしい。

—いやいやいや、そういうこともしてみたいって言ってた気がするんですね、確か。

高橋 『やくたたず』やった時?

三宅 その後の表現論ですかね。

—その時くらいだったと思うんですけど。「ずっと自分が書いたホンで長編撮っていて、他の人の脚本でも撮りたいって思ってる」っておっしゃってたなって。

三宅 よく、「オリジナルにこだわられてるんですね」って聞かれたりするから、逆に言えば、そんなわけないだろうっていうアピールをしたかったんですかねえ。当時、「三宅君はエンタメとか見もしないし興味もないんだろう」って言われるようなこともあって。自分でホンを書くとどうしても狭くて、グッと広げたいとは思ってました。とはいえ、まさか自分にとっての最初のそうした機会が、高橋さんのホンだとは思ってなかったです。

高橋 最初の他人の脚本ってことになるのね。

三宅 はい。

—三宅さん、オススメする映画ってだいたいあれですよね。トニー・スコットだったり、ジャド・アパトーとかだったり。あと、ポパイとかで取り上げてるのも、ジャンルのしっかりしたものだったりだとか、エンタメが多い印象がします。

三宅 ポパイの連載では、基本的には好きな映画を紹介するってことではありますけど、なんだろうな、敢えて言うなら……これはごく狭い世界の話だと思うから例にあげるのは申し訳ないんだけれど……例えば、ペドロ・コスタとアピチャッポン(・ウィーラセータクン)は知ってるけど、(スティーブン・)スピルバーグは見たことないっていう人がいる、みたいな話を聞いたことがあって、結構びっくりしたんですよね。いやハリウッド映画の新作は普通に見るよね?っていう。
18期・19期で講師をやっていた際、自分より少し年下の世代の人たちと映画について話してるときに、偏食だなあ、と思ったことはたまにありましたね。えっ野菜しか食わないの? みたいな。そんな感じ。
ポパイの連載は、本当はメジャーより、宣伝費の少ないイイ作品を押したいところでもあるんだけど、メジャーを真面目に見る文章も書きたくて。

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ー『呪怨:呪いの家』の現場には、高橋さん行かれましたか?

高橋 2回。角川大映のステージで撮ってるのが1回目で、それはがっちり丸一日見学させてもらって、すごい面白かった、その現場。2回目はあれなんだよ、一瀬さんから急にメールがきて、「今高橋さん家の近所で撮影やってます」って言われたっていう(笑)ロケスケとか総スケとか見てなかったから、どう撮るかっていうのはお任せだったんだけど。近所だっていうから、自転車でつーっと行ったら、ヒロインの黒島(結菜)さんのシーン撮ってるとこで、「ああどうも」とかって。それはいつも見慣れてる川沿いのところでね。しょっちゅうあのへんでジョギングしてるんですけど。そこで撮影やってるの見るって、不思議な体験でした。

三宅 その2回でしたか?

高橋 うん、その2回。

三宅 あとは年始に、アフレコのタイミングで一度お会いしましたね。

高橋 あ、そうですね。一瀬さんが変なこと思いついて。最初のナレーション、今あれ荒川(良々)さんでしょ?

三宅 荒川さんの声ですね。

高橋 荒川さんの声でやるってきわめて順当なことだと思うんだけど、冒頭の「実際に起きた事件にもとづいていた」みたいなナレーションを、最初僕の声でやろうとして。

一同 (笑)

三宅 予告編でも使われていた、あのセリフですね。高橋さんが導き手になる。

—ストーリーテラーみたいな。

三宅 そうそう。高橋さんの声を録らせてもらって。でも結局、「高橋さんの声で行こう!」って決断するための理由があんまり作れず、普通に考えて荒川さんの声でいこうか、という話を一瀬さんとして、今の形になりました。あ、でも、そうだ。劇中で出てくる「1988」っていう年号の手書き文字や、冒頭のNetflixオリジナルシリーズの手書き文字、あれは高橋さんの字です。

—あっ、そうなんですね。

三宅 いろんなペン、筆だったりマジックだったりで、いろいろ書いていただいて。

—冒頭に出るやつがってことですね。

三宅 そうです。

高橋 一瀬さんからその依頼もきて。「なんで一瀬さん、僕の字知ってんの?」って聞いたら、なんか昔、90年代の頃、僕結構手書きで書いた色々なメモを見せてたらしいんだよね。それで僕の字を見て「ちょっと変な字だな」と。

一同 (笑)

高橋 それで筆とかですごいいっぱい書かされて。あ、タイトルの「呪怨」も書いたんだよ。「呪怨」って。でもタイトルは結局、ちゃんとしたプロフェッショナルの人がやることになって、本当によかったと思うけど(笑)。でも「Netflixオリジナルシリーズ」のロゴと西暦は僕の字が採用されましたね。びっくりしましたね。今度、そういう目で見ていただくと。予告編でも出てますよ。

 

—完成したあとって、通しで見たりしたんですか?

高橋 試写はね、コロナで中止になっちゃったんだよ。Netflixからパスワード付きで見られるようになってて、それで見た。

—ご自宅で見られたのが初めて?

高橋 うん。本当はね、スクリーンで3時間。ぶっ通しでみんなと一緒に見るのが楽しみだったんだけど。辛いね。

—でもそうなると、図らずも、観客はみんなNetflixで見るわけじゃないですか。同じ体験だったっていうことですね。

高橋 そういうことですね。

—そういうこと含め、いかがでした?

三宅 ちょっと待って!実は完成してから高橋さんと喋るの、これが初めてなの。緊張してるんだから、そんなあっさり聞かないで!

一同 (笑)

高橋 えっ、そうだっけ?

三宅 はい。あ、でも秘宝(映画秘宝)のインタビューは読みました。

高橋 あっそうか、秘宝のインタビュー読んでるから、なんかもう話したような気がしてるんだわ。

三宅 秘宝のインタビュー、Mのくだりについての話が面白かったです。荒川さんがトークイベントやっていたら、マネージャーが舞台に上がってきて、という場面。

高橋 はいはいはいはい。

三宅 あそこの芝居で高橋さんが衝撃を受けたっていうところに、僕は驚きました。

高橋 ああ、そうなんだ。へえ。そういう、立ち入った話でもいいのかな?どうなんだろう?(笑)

三宅 詳しくは、今度の脚本コースの(共通)講義できっといっぱい話す形ですかね。

高橋 でも基本(映画秘宝の)インタビューで答えたけど、(『呪怨:呪いの家』は)僕や一瀬さんのリアルタイムで、大体20代後半〜30代だった僕や一瀬さんがよく知ってる時代を描いてるんだけど。その時まだ小さい子供だった三宅くんの捉え方とはやっぱりズレがあるわけ。見てるところが違うというか。物の見方が違う。
でも、自分の世代にジャストミートな客層を狙ってるわけじゃないんで。もっと広い客層を狙ってるから、むしろそういう、昔の世代と今の世代の混合物みたいなものが生まれたのが面白かったんじゃないのっていうことなのかね。それはホラー表現に関しても、自分たちが感じてる重さみたいなものとはちょっと違うんですよ。
それは僕らからすると「あっ結構ライトな感じで迫ってるんだね」っていうのがすごい新しかった。ライトっていうのは、あんまり怖くないってそういう意味じゃなくて。もっと重々しくシリアスに見せなくても、こういうあっけらかんとした見せ方で逆にすごい乾いた空気感の怖さみたいなのが出せるんだ、みたいなことなんですけどね。それも多分僕や一瀬さんからは出ない発想で、二つの世代の共有物というか、混合物だから生まれたようなものなのかなって思うんですよ。どうだろう、答えになってるんでしょうか?

—じゃあ、(三宅さんにとって)目論見通りなものが?

三宅 いや、目論見通りなんて大層なことは言えませんが、なんだろうな……いわゆるJホラーの画面の「重さ」、物理的にも重いカメラで撮ってるなって思うような、カチっとした画面は最初に頭に浮かんでいたんです。でも、本作もそのように撮るべきかどうかは、結構悩んだし、なかなかわからなかったですね。現場中もそこは悩んでいて、「やばい、失敗したかも、もっと重くしなきゃダメかも」って思ったこともありました。
ドラマシリーズの3時間というその長さと、色んな人がたくさん出てくるっていうことで、重みや広がりは当然あるシナリオなんだけども、一方で、深まっていくようでそうでもない謎な感じもあるし、「さらさらとすごいことが日常的に起きていってしまう」っていう怖さもこのシナリオにはあるよな、とは考えていました。見てる間はスルスルと、次々と、それこそネットドラマらしく一気に最後まで進んで、終わった時に「あれ?」って、すごい嫌なものが残るっていうイメージ。そういう怖さは、ネットドラマだからこそ成立するかもな、と。
あ、編集中にも思いましたね。怖いシーンの前後、ぐーっとこう力が溜まっていくような、何も起こらないけどなにか起こりそうな時間みたいなものも多少撮ってはいるんですけど、携帯での視聴には耐えられない感じもしていました。編集で、深沢(佳文)さんがスパスパと繋いでいくのをみて、これがドラマの速さなんだなと思いましたし、これはこれで怖い、と考えました。

高橋 なるほどね。あ、この間、あれだよ。今Netflixで予告編以外に、クリップっていうの?

三宅 はい、あがってますね。

高橋 荒川さんの主人公が、呪怨の屋敷に、高坂っていう刑事が先導する形で入っていく、あの一連だけ見せてるでしょ?クリップで。あれを見た僕と同世代のシネ研の同輩だった男が、今もディレクターやってるんだけど、「高橋っ」ってメールがきて。「お前、あの撮り方でいいのか?」みたいな。

三宅 うわあ!(笑)

高橋 要するにその、「待ちポジ」だって言ってるわけだね、彼は。

三宅 なるほど。

高橋 荒川さんが入ってくる時、キャメラが室内で待ち構えてると。ああいう撮り方ってお前、昔めっちゃ怒ってたじゃないか、みたいな言い方をしてきて。「あれは、荒川さん側の視点で見せないと。待ち構えてる者の側に先にキャメラが先行していっちゃいけないんじゃないか」ってお前昔よく言ってただろって言われて、すごい文句つけてきたんで。いや、そういうことじゃないんだと。確かに昔そういうこと言ってました、で、中田秀夫監督と大げんかしたりしたけど、違うんだって、これはテイストが。僕も見て分かったんで。全編見たらわかるよっていう。

三宅 あそこは、小田島の視点で入る必要はないというか、あの場面の前にお客さんはもうすでに何回か家の中を見ている、ということもありまして。

高橋 そうそう、それもあるよね。文脈の中でのショットの配置だから、それはもうそういうことなんだけど。でもやっぱり彼なりに自分が知ってるJホラーのテイストとは違うものを見たっていうのが多分違和感があって、そういうことを言ったんだと思う(笑)。

三宅 明日から配信で、どんな反応があるのか僕は戦々恐々としていますが……。でも、すでにオンライン試写で見た方たちが「怖い」と書いてくれていたりしたので。

高橋 そうだね。そうなんだよね。

三宅 高橋さんが脚本の書いた物語の怖さに、みなさん反応されていると思うんですけど。ほっとはしてます。

高橋 自分もほっとしてる。最初にNetflixのこの脚本を立ち上げた時に一瀬さんと、やっぱり、僕が普段、普段っていうか、普段やってるようなマニアックなものじゃなくて、あくまでライトユーザー向けに。層が広いんだからNetflixは、っていうことで。あまりマニアックなほうにいかないように、いかないようにっていう脚本づくりをしたので。一般のお客さんには受け入れられるけど、逆にうるさ方からはああだこうだ言われるんじゃないかみたいな思ってたんだけど。今の所あれだよね、「映画秘宝」をはじめ、コアな人たちが反応してるよね。

三宅 「映画秘宝」、初めてインタビューがあって、嬉しかったです。特集記事、面白かった。でも僕、「ラルゴ館」って全然知らなかったです。

高橋 そうでしょ(笑)

三宅 知らなくて大丈夫でしたか?

高橋 極めてマニアックな人しか知らないです。

三宅 そうなんですね。「教えといてよ先に〜!」とか思いながら記事を読みました。

高橋 ああ、そうだったか。

三宅 他はさすがに知ってました。

高橋 そういうマニアックなことってのはね、そこまでさかのぼった話をするとどんどんコアな方にいっちゃうんだけど。ライトっていうのはまあ、そういうのなくても、こういうものの怖さって誰でもわかるよねってことなんですよ。あくまでもそこに線を引いてやろうとしたってことなんですよね。

 

高橋洋さん×三宅唱さんインタビュー(2)へ続く