フランス映画祭マスタークラスとして、2017/6/24(土)に行われた海外ゲスト特別講義。当日は『ロボコップ』『スターシップ・トゥルーパーズ』などのポール・ヴァーホーヴェン監督を迎えて行われました。予定時間を大幅に超え、受講生たちへの質問にも丁寧に答えていただいたヴァーホーヴェン監督。少しではありますが当日の様子をお届けします。なお本レポートはフィクション・コース修了生の川口陽一さんに執筆いただきました。

DSC_2150左:高橋洋さん(脚本家/映画監督)、右:ポール・ヴァーホーヴェン監督

去る6月24日、「フランス映画祭2017」に、最新作『エル ELLE』を携え来日したポール・ヴァーホーヴェン監督を迎え、映画美学校試写室にてマスタークラスが開講された。

ハリウッドの一線でヒット作を飛ばしながらも、個性的な作家であり続け、ハリウッドを離れた今もなお、意欲的に作品を作っているポール・ヴァーホーヴェンの真髄に迫った。

DSC_2148熱気に包まれた会場に万雷の拍手に迎えられ現れるヴァーホーヴェン。にこやかに、手を振り視線を送ってくる。彼がファンを大切にしていること、映画を学ぶ後輩たちへのリスペクトがあることも感じられた。その姿はスタアそのものであり、かくいう筆者も彼をスタアだと信じている一人だ。小学生の頃見た『ロボコップ』の監督が目の前にいる。

その『ロボコップ』(1987)が日本で初めて上映された、「東京国際ファンタスティック映画祭’87」。そこでの観客の驚きと熱狂ぶりを伝えることから始まった。ヴァーホーヴェンの映画の過剰なまでの分かりやすい表現と、それゆえ生まれる多層的な解釈。それは同じメインスタッフで制作された『スターシップ・トゥルーパーズ』(1997)にも言えることだ。単刀直入な表現だからこそ突くことのできる本質。どうして彼にはそれができたのだろうか。

「アメリカを知らなかった」と答えるヴァーホーヴェン。渡米して時期が浅かったときに作った『ロボコップ』は辞書を片手に現場に立っていたのだ。しかし、その「知らない」ことが、逆に外からアメリカを驚きと興味で見る視点をもたらした。それはプロデューサーが集めてくれたアメリカのスタッフたちとのコラボレーションでも同様であった。才能あるスタッフたち、中でも興味深かったのは、編集のフランク・ユリオステ(リチャード・フライシャーやロバート・アルドルッチの作品の編集も手掛けた編集マンである)について。彼は一週間で急遽探してきた技師であったが、驚くべき仕事ぶりであったという。意外なことに、ヴァーホーヴェンは『ロボコップ』の編集には立ち会っていないという。「私は編集には立ち会わない。自由を与える」。大切なことは、才能のあるスタッフを見つけて自由を与えることだ。細かく指示を出すようなことはするべきではない、と。強烈な個性で作品をコントロールしているとポール・ヴァーホーヴェンに対して先入観を持っていたので、とても驚くべき発言であった。

DSC_2253『ロボコップ』にある政治的なテーマやアメリカ批判は、もともとシナリオにあったもので自身もアメリカへの理解が不十分なままであった。が、一方の『スターシップ・トゥルーパーズ』では、意識してアメリカ批判を加えたという。両者に共通しているのは、製作会社から何も言われないという「幸運」に恵まれたということである。原作にあったファッショ的な要素を逆の視点からアメリカ批判・皮肉を加えた。あるいは「未来のアメリカの可能性」として。しかし、「今のアメリカを見ると…」と付け加えるヴァーホーヴェン。「幸運」がない限り今のアメリカではもう作ることは不可能な映画…。単純に政治的な映画は金にならない、映画会社は作りたがらないのだ。「 でも、トランプ政権が続けば、また可能になるかもね」と不敵な笑みを浮かべるヴァーホーヴェン。再びアメリカで過剰に分かりやすい映画を作るのを夢想したのは筆者だけではないはずだ。

やはり、『ロボコップ』と『スターシップ・トゥルーパーズ』の話題が中心になり、熱気あふれる言葉を繰り出してくるヴァーホーヴェン。質疑応答に移っても、会場の熱気は冷めない。残念ながら全員が発言できないほど質問の手が挙がる。そのなかでも印象深かったのは、セックスシーンについて、特に必ず画コンテを用意する。俳優と事前に話し合うという発言。現場で露出の度合いなどについて、俳優の前でディスカッションするのはやってはいけない、「乳首」だとかいう言葉もはっきりということが大事だ。5、60人のスタッフの前で俳優はとても居心地が悪くなる、という言葉。これまた意外と言ってはいけないが、やはり大胆なシーンには繊細な心配りがあったのだ。

DSC_2160そして終盤では、重い政治的なテーマをエンターテインメントにすること、それに成功していることについて聞かれたヴァーホーヴェンは「私は作家同士ではなく、世界中の人とコミニュケーションをとりたいと思っている」と切り出し、好きな監督としてデイビッド・リーン(『戦場にかける橋』(1957)、『アラビアのロレンス』(1963)など)をあげながら、映画がビジネスとアートとの妥協でありコンビネーションであること、それを受け入れること、を訴え、この会場の映画作りを志すものたちに、映画にはお金がかかること、実用的な側面があることを「恐れないでほしい」。とハリウッドをサバイブした監督からの力強いメッセージが送られた。

会場に現れた時以上の拍手と熱気をもって講義は終わった。しかし、それだけでスタアは終わらせない。その後急遽即席のサイン会が行われた。時間も押すなか、「ここでやめては不公平になる」と求める者全員ににこやかにサインをするポール・ヴァーホーヴェン。拍手の中、投げキッスをして、車に乗り込んでいった。

人々を喜ばせることをスクリーンの外でも忘れない彼の姿勢に、誰もが初めてヴァーホーヴェンの映画を見た子供の顔になっていた。
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映画美学校では、海外のゲストをお招きしての海外ゲスト特別講義を随時行っており、映画美学校受講生は参加することが可能です。

フィクション・コース第21期初等科、9月6日(水)開講!
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