安永豊さん
映画美学校が脚本コースをやるというのはなんだか面白そうだな、と
映画の脚本をやりたいという想いがあったので、自主制作で短編映画を作ったり、別のシナリオスクールに通ったりしてました。それが終わって、特に書ける場もなくなった時に映画美学校が脚本コースを始めるのを知りました。
黒沢清さんや塩田明彦さんなど映画美学校の講師の方が作っている映画は結構観ていて、映画美学校に興味はあったんですけど、自分は脚本がやりたかった。フィクション・コースだと映画全般を学ぶコースなので、そこまでの時間的余裕も経済的余裕もなかったですし、映画美学校が脚本コースをやるというのはなんだか面白そうだな、と。
「大衆も玄人も全員なぎ倒したい」
夜クラスを選んだのは仕事の関係ですね。正直、講師の方で知っていたのは高橋洋さんだけで、その高橋さんが講師にいるというのが大きかったです。高橋さんが書いた『映画の魔』という本に「私は大衆も玄人も全員なぎ倒したい」みたいな言葉があって、めちゃカッコいいと思いました(笑)。
みんな普通はどちらか選ぼうとするじゃないですか。そうじゃなくて、両方なんだという志に憧れましたね。
自分の中で「脚本を書く行為」と「理論を聞く行為」が全然違った
村井さだゆきさんが講師のクラスだったんですが、最初はついていけるのかな、と不安ではありました。それは、村井さんのクラス講義では最初に「記号学」みたいなことをやるからで。僕は学校の授業みたいな空間が昔は凄く苦手だったので、これは頭に入ってこないレベルのことがはじまるな、と思いました。それは僕だけじゃなくて、同期の何人かと講義の後で「やべえ…」みたいな話はしてました(笑)。
そんな感じだったのですが、徐々にそれに慣れていって、段々面白みが分かって来た、という感じでしたね。メタフィクションの講義もあり、あんまり興味のなかった分野だったんですけど、村井さんならではの講義で、お世辞でもなんでもなく相当面白かったですね。一方で、講義の内容の面白みは分かったのですが、これが実際に脚本を書く時に、自分がうまく使いこなせるかどうかは分からないな、と思っていました。村井さんの中ではもちろん繋がっているのだと思いますが、自分の中で「脚本を書く行為」と「理論を聞く行為」が全然違ったので、そこが繋がるのかな、という気持ちはありつつでしたね。
でも、村井さんの作劇に対する姿勢ですね、これは高橋さんもそうだし、昼クラスの講師だった三宅隆太さんもそうでしたけど、「もっと面白くもっと面白く」っていう、執念みたいなものには、やっぱり影響されました。
とりあえず面白いものを書いてくれればいい
共通講義ではホン読み(プロの撮影で行われるリハーサルの一種。書かれた脚本を、セリフは演じる役者が、ト書きなどはスタッフが実際に声に出して読む)の講義などをやっていましたね。高橋さんも当時は手探りで講義をやっていたのかな、と思うのですけど、高橋さんの場合は「教える」というよりも「自分も一緒に考えながらやっていく」感じの講義なので、高橋さんが実際にどうやって脚本を考えていくのかということが見えたので、それは凄く面白かったです。
高橋さんも村井さんもそうなんですけど、色々自論は述べてくれるのですが、最終的には「それを汲んでも汲まなくてもいいからとりあえず面白いものを書いてくれればいい」という人たちでした。課題で実際に自分が書くようになると「教える」というよりも「こちらがいかに面白いものが書けるようになるか」という方向で指導してくれました。そこで、書いてると「面白くしたいのに、なかなか面白くならない」というときもあるじゃないですか。そういった時に、講師から言われたことを思い出して、どうにか活用出来ないか、と考えるようになりましたね。
ちゃんと面白い脚本は評価されている
僕のクラスでは提出された脚本を受講生全員が全部読んで、どれが面白かったか投票みたいなこともしていたんです。そこで「自分が面白いと思う脚本は、みんなに面白いと思われるんだな」と、初めて実感を得た感じが凄くありました。いままではそれが繋がっていなかったんです。公募で賞を取ったシナリオを雑誌で読んでみたりしたんですけど、「全然わからん……」といった感じのも結構ありました(笑)。これはディスっているというわけじゃなくて、僕がただその作品と合わなかっただけかもしれないし、ちゃんと脚本を読めていなかっただけかもしれないですけど。
でも映画美学校に入って、ちゃんと面白い脚本は評価されるな、というのがあって。それがめちゃくちゃ大きな進歩でした。当たり前ですけど、自分が面白いと思うものを書けばいいだけなんだなということが分かったし、今もそれを目指してやっています。
誘われて仕事をはじめました
仕事で脚本を書きはじめたきっかけは、前に通っていたシナリオスクールの同期の人に誘ってもらったんです。その人がアニメの脚本をやり始めて、「一緒にやらないか」と、自分も映画美学校在学中にTVの短編アニメなどの脚本を書き始めました。アニメは、子供の頃はよく見てましたけど、大人になってからは全然見てなかったです。実写の方が好きでしたね。コメディが好きなんです。映画だと寅さんとか、森崎東監督や川島雄三監督とかも、あとはスタンド・バイ・ミーなんかも大好きですね。
先のことはわからない。目の前の脚本を面白くしたい。
今はアニメを中心に書いています。実写も書いてはいますが、中々動かないですね。機会があれば実写もやりたいです。ちょっと、映画美学校のこと褒めすぎですね、それはあんまりやりたくないです(笑)。自分は映画美学校に入って良かったと思いますけど、人によって合う、合わないは当然ありますし、こればかりは分からないですね。前に通っていたシナリオスクールは、書くということにひたすら特化していたので「書く体力」は付いたと思いますし、そこで脚本を書いていたことがいまにつながっています。ただ、映画美学校は、アクターズ・コースだとかフィクション・コースだとか、他のコースと交流できることが一番大きいと思います。例えば、共通講義のホン読みで、アクターズ・コース受講生がセリフを読んでくれたり、フィクション・コースの人に自宅をロケ場所として借りたいとお願いされるとか(笑)。脚本を書くことだけじゃなくて、その先にある映画作りの生の実感を得られる、そういう経験は、脚本を書く上でとても大きいことだと思います。あと時間が経ったから言えますけど「映画美学校内での評価を鵜呑みにしないでも良いかな」ということです。外に出たら色々な評価があるし、結局は自分がどうしたいかですから。映画美学校に入った時に、アニメの脚本をやっているなんて思ってもみなかったです。何かしらのつながりからそんなことになって、ありがたいですよね。あとは、映画美学校に行って、単純に友達がたくさん出来ました。そういうのは別にいらないと思ってたんですけどね、意外と嬉しいもんでした(笑)。
この先、どういうことになっていくかは分からないです。今はただ取り組んでいる目の前の脚本を面白くしたいですね。
(インタビュー・構成:スズキシンスケ)