長尾理世さん×石川貴雄さん
――そもそものいきさつを聞かせてください。
長尾 私がアクターズ・コースに在籍していた時に、2年間石川さんが「TA」(ティーチング・アシスタント)としてクラスに付いてくれていたんですね。もともとはフィクション・コースにいて、何本か監督もしている人らしい、ということだけ知っていたんですが、作品を観たことはなかったんです。それで今年の5月末に私が引っ越しをすることになったので、せっかく部屋が2つ使えるんだから、石川さんここで何か撮って下さい、というお話をして。
石川 「スタッフみんなで荷物を運べば、引っ越し代が3万円は浮きますから制作費にまわせますよ」って。
長尾 そんなに最初からがめつくはなかったですけど(笑)。『ゾンからのメッセージ』(※アクターズ・コース第2期高等科修了制作作品。20日19時40分から上映予定)を撮影する時に、ロケ地を探すのが大変で場所を自由に使えるというのは貴重なことなんだ、っていうのが身に沁みていたから、そういう発想がでてきたのかもしれません。
石川 それで小田篤さん(※アクターズ・コース第1期修了生)が引っ越しを手伝うことになっていたから、じゃあせっかくなら引っ越しの過程を撮ろう、と。そして必ず、時間内に引っ越しを終わらせよう、と。引っ越せなかったら、意味ないじゃないですか。「映画を撮る」ことと「引っ越しを終える」ことの両方をちゃんとやるのが第一目標でした。
――それ以降、毎月1本ずつ撮ることになったのは?
長尾 私が進むつもりだったクラスが開講されないことになって、浮いた学費のことを考えたんです(笑)。これで毎月1本ぐらいは、映画が撮れるんじゃないかって。今までの講義では、予算のない中で短編をたくさん撮ってきていたから、何というか、できる気がして。
――いいですね。「できる気がして」。
長尾 そうなんです(笑)。それと、外に出る前に経験を積みたいという思いもすごくありました。『ゾン~』で「映画の演技って本っ当にわからない!」って痛感したし、とにかく一度でも多くカメラの前に立って経験したいと。
石川 自主映画って基本的に、監督から俳優にオファーするか、オーディションするかじゃないですか。「俳優が監督にオファーする」なんて、まずない。きっとアクターズ・コースの方針のひとつである「自分で作れる俳優になる」というのが、どこかに残っていたんでしょうね。
長尾 いや、でもアクターズでそう教わったからやろうと思ったわけではないんですよ。石川さんに相談するうちに、いろんなことが決まっていって、うまいこと乗せられてるなあっていう感じでした(笑)。
石川 アクターズの人たちだけで何かを作ろうとすると、どうしても演劇になってしまうんですよね。映画を作るとなると、いろんなスキルがある人たちを集めてこなくちゃいけない。だから映画で、こっちから人を「巻き込んでいく」っていう現象が起きたらいいなと思ったんです。映画美学校って、いつ行っても、いろんな人に会えるじゃないですか。それでとにかく、一緒にやりたいと思う人に声をかけていきました。7月号の本田雅英くん(※フィクション・コース第13期修了生)は僕と同期で、面白いものができそうだっていうことはわかっていたし、8月号の冨永圭祐さんと9月号の佐野真規さんは僕の2期先輩なんですけど、学校でよく顔を合わせて映画の話をしていたんですよ。実現しないのはわかっているけど「何か面白い映画作りましょうよ!」っていう話を。
長尾 私も皆さんとは知り合いではあったんですけど、でも「私を主役にして映画を撮ってください」とはなかなか言いづらかったですね……。
石川 だから最初のひと声は僕がかけて、すぐさまそれを長尾さんに伝えて、「よろしくお願いします」のメールは必ず長尾さんから送るっていうことにしてたんだよね(笑)。やっぱりそういう決定的なひと推しが大事だと思ったし、自分としても受講生だった時から「声をかけられたい」っていう気持ちがずっとありましたからね。声をかける、っていう行為って、すごく大きいなあと思うんですよ。
――そして各作品には、次の号の監督が必ず出るという仕組みになっていますね。
長尾 最初、石川さんの作品に本田さんが出たのは、単に俳優が足りなかったからです(笑)。でも、これはいい手だな、というのはありましたね。スタッフとして「手伝いをさせられてる」というよりは、「出る」っていうことで何かひとつ、……
――能動的になりますね。
石川 そうなんですよ。僕とかが「出てよ」って言っても「やだよ」「恥ずかしいよ」ってなってたと思うんです。でも「出る」ということに本気で取り組んでるアクターズの人が軸にいることで、これは冗談ではない、ということがわかる。何よりそれを楽しんでもらえたのが、大きかったと思いますね。
――それぞれの作品を観て、何やら軽やかな印象を受けました。
石川 監督自身が、ゆるく楽しくやっている感じは出ていると思いますね。こっちから「きっと面白くなるよ!」みたいなことを言わなくても、自分から面白がれる人たちなんですよ。本田くんは「8ミリで撮る」、冨永さんは「iPhoneで撮る」、佐野さんは「カフェテオ(※映画美学校に隣接していたカフェ。2014年9月閉店)で撮る」。中瀬さんは全編撮影をしてくれたのですが、「毎回違うカメラで撮る」と決めて。みんな自分の楽しみを見つけて、自分で楽しんでいるので。その姿を見て、人が集まってくれたらいいなっていうのはずっとあった。「楽しいんです!」というアピールでも自己満足でもなく、ただ、楽しい。何より、それだったなあ。
長尾 三宅唱さんが映画祭のチラシで「これはかなりハッピーな企画に違いない」って書いてくださっていて。確かにそれは嘘じゃないし、そこに期待してもらえるんだったら、この映画はそれに応えられてると思うんですよ。「ネタ出し」とか、私はちょっと嬉しかったですからね。自分がべらべらしゃべったことを、監督が何かしら拾い上げてくれることが。俳優は普段演技を通して、自己表現をしますが、設計図としての脚本から意見を出せることはあまりないですから。
石川 「ネタ出し」は大きいですよ。何をやったら面白いのかを、みんながでたらめにしゃべりまくるという。それをやっていると「今からやろうとしていることの何が面白いのか」を共有できるんですよね。でも長尾さんは心配だったと思いますよ。ただ聞いてたら、くだらない話の羅列ですから(笑)。
長尾 心配でした(笑)。でもみんなの意見を聞くことで、本の読み方がだんだん変わってきたんですよね。「ここの面白さはこういうことなんだ」っていうことを踏まえて読めるようになって。
――最初から最後まで、全員で作っていったわけですね。
石川 そうですね。ほぼ、みんなで。
長尾 映画って、全部自分ひとりでやることは絶対できないじゃないですか。自分が関わっていないところがはっきりとあるから、それを観て驚いたり喜んだりする。
石川 「11月号」の監督作品の撮影が終わった時に長尾さんが「これで終わりじゃないから嬉しい」って言ったんですよ。俳優さんは普通、撮影が終わったら、ひとまず終了じゃないですか。スタッフたちはそのままポスプロ(※撮影後の工程)になだれ込むわけだけど。でも今回、長尾さんは、ポスプロにも思いきり関わっている。今や「After Effects」を駆使する女優ですからね(笑)。
長尾 前までは「編集する人しか編集しちゃいけない」とか「本を書く人しか本を書いちゃいけない」って思ってたんですよ。もちろん絶対上手い下手があるし、専門の方にやっていただくに越したことはないけど、でも今回はこういう企画なのだから、例えば小学生が歌も歌うし工作もするし算数も習うように、誰が何をやってもいいんですよね。そういう楽しみ方を1回ぐらいは、しても許されるんじゃないかなと。
石川 「たかが映画美学校映画祭じゃないか、面倒くさい」って思えば、いくらでも思えるんですよ。でも今回はそういう理由で誰かから却下されたことが、ひとつもなくて。みんながいろんなことをしているんですよね。小田さんは音楽を作ってくれたし。
長尾 ロゴは中瀬慧さん(※フィクション・コース第13期修了生)が作ってくれて、オープニングとブリッジは本田さんが。
石川 エンディングは僕が作るのと、ポスターはこれから、長尾さんが作ります。
石川 MSワードで何でも作ってくれちゃうんですよ。
長尾 最初の頃は、何をするにも戸惑いがあったんですよ。いつの間にか講師の方にもこの企画が知られてて、多少プレッシャーに思ったりもしていたんですけど(笑)、でもこの企画を面白がってくれる人がいることがわかって。「やってもいいんだ」って思えるようになりました。
(2014/12/09 取材・構成:小川志津子)