フィクション・コース第11期修了生インタビュー〜佐野真規さん×冨永圭祐さん×内藤瑛亮さん×山形哲生さん〜(1)
フィクション・コース第11期を修了した佐野真規さん、冨永圭祐さん、内藤瑛亮さん、山形哲生さん。内藤さんが監督した『許された子どもたち』(現在劇場公開中)でも現場を共にし、修了して今なお交流を続けるみなさんに、お話をお伺いしました(2020/07/11インタビュー)
写真左上:佐野真規さん 左下:冨永圭祐さん 右上:内藤瑛亮さん 右下:山形哲生さん
—皆様、もう10年くらいのお付き合いになりますか?
内藤 13年ですね。
—あ、そんなに。13年を経て、一つの作品に参加されているっていうことが個人的にとてもすごいなと思っていて。皆さんの関係を通して、今のコロナ禍のことですとか、今後のことなどを話せたらなと思っています。現在劇場公開中の『許された子どもたち』は2011年に企画が始まったと聞いたのですが………
内藤 僕がホンを書き始めたのがそのへんかな。2011年の夏ぐらいから企画を考え始めて、山形と関わり始めたのは2013年ぐらいからかな。
山形 そうですね。今日、昔のシナリオやプロットを振り返ってみたんですけど、一番最初に内藤さんからあらすじが送られてきたのが、2013年の夏だったみたいですね。
—山形さんが共同で脚本を書かれたんですよね。
山形 そうです。内藤さんが『先生を流産させる会』と同時期から温めていて、次回作として撮りたいと思っていた企画が、最初に簡単なあらすじとして送られてきました。そこから一緒に書かないかっていうことで誘われたのが、この『許された子どもたち』に僕が参加することになった経緯です。
—佐野さん、冨永さんはいつから『許された子どもたち』に関わり始めたんですか?
佐野 制作が実際動き出す前ですね、2016年かな。
内藤 うんうん、そのくらいですね。
佐野 実際に内藤さんと山形さんで企画を開発して、その時にはある程度撮れるっていう段階までホンが出来上がっている状況でした。あと恐らく、これは内藤さんから話してもらったほうがいいと思うんですけど。ワークショップ映画というか、アクターズ・コースの『ジョギング渡り鳥』(鈴木卓爾監督)だったりとか、橋口亮輔監督の『恋人たち』、あと『ハッピーアワー』(濱口竜介監督)もそうですよね。そういう良作が日本映画の中で、ワークショップの中で映画をつくることから生まれていたっていう流れもあって、製作を決断されたっていうところもあると思うんですけど。
内藤 佐野さんが『ジョギング渡り鳥』のときに制作で関わっていたので。そのくらいの時期ですよね、2016年。
佐野 そうですね、ちょうど劇場公開し始めたのがその年の春かな。『ジョギング渡り鳥』が公開になって、それが落ち着いたくらいですかね。夏か秋くらいに声をかけていただいて、その年の秋冬で出演者ワークショップ募集のPVを撮った流れだったんじゃないかな。
冨永 僕は編集だったので………編集をお願いしたいっていう依頼が来たのって現場中くらいですか?
内藤 え、そうだったっけ。撮影現場にはエキストラとかで………
冨永 何日かはお邪魔しましたね。
内藤 録音助手もやってもらいましたよね。どうしても人手が足りなくて。冨永さんは録音部経験があったんで。
冨永 いや、一回だけですよ(笑)
内藤 ごめん、そうだったっけ(笑)すごい、熟練のイメージでした。
山形 安定感がね。
内藤 そうか、そうだったっけ?
冨永 映画美学校時代に、井土(紀州)組だけです。
内藤 わあ、そうね。だから、編集をどの段階で相談したかは‥‥‥
山形 あれですよ、商業じゃなくて自主映画で撮るって決めて、その製作費を限られた予算の中でどう賄っていくかってなったときに、編集って一つネックだったんですよ。そこまでお金は払えないけれども、やっぱりちゃんとした人に頼みたいっていうのがあって。内藤さんの作品に関して言えば、冨永さんが過去作でも編集をやっていたのでお願いすることに。でも(参加したのは)スタートした後だった気もしますね。
冨永 うん、後だよね。
山形 夏編と冬・春編って分けて撮っていく中で、夏編の撮影をしているか、その準備をしているかのタイミングで声をかけて。‥‥‥思い出した、冬に入る前に一回夏編を繋げてもらったんでしたっけ。
冨永 夏編のあと、冬編まで間が空くので一回夏編をつなぐってことになって、その間に。少し時間かかっちゃったんですけど。夏編を一回編集軽くやってっていう感じの進め方だった気はしますね。
内藤 思い出した思い出した。元々、僕が自分で編集をやろうって思ってたんですけど、夏編の撮影終わった後に『不能犯』のスピンオフのドラマが入ったんで。一人じゃやりきれないなっていうところで、冨永さんにお願いして、夏編の粗編は冨永さんに任せて。冬編の後は僕に時間があったから、音貼りとかラフまでは自分でやれたんだ。その後に冨永さんに託して。で、またキャッチボールするみたいな感じですね。その流れです。
—自主映画となると、「11期の皆を呼ぼう」というのは内藤さんの中で元々頭にあったんですか?
内藤 『先生を流産させる会』の時は11期メンバーでやってて。その頃撮った作品はだいたい11期に頼んでるんですけど。徐々にみんな仕事についたりとか、他で忙しいこともあったりして。簡単に自主映画に協力お願いしますって頼むことが難しくなってて。頼みたかったけどちょっと頼めなかったなっていう時期の作品もあったんですよ。だから、また11期にお願いしたいけど果たしてやってもらえるだろうかっていう不安はあった状況です。みんな仕事があるので。でも佐野さんには何度か会ってちょっとずつ小出しにして(笑)
山形 外堀を埋めて(笑)
一同 (笑)
内藤 外堀を埋めていった感じでしたね。
冨永 佐野さんも山形も僕もでしたけど、その当時って月〜金で仕事してたんで。果たしてがっつり関われるかって言われると、難しい。
内藤 だから、『許された子どもたち』に関しては土日でちょっとずつ会って進めていけるようには考えていて。でも弊害もあって。オーディションやった時とかは結構山形にたくさん連絡がきちゃって。平日働いてる山形がいっぱいいっぱいになっちゃって申し訳なかったなって。
山形 平日の仕事が終わってから、夜に、大量に来た応募のメールとかを返したりしてましたね。
冨永 休みなしだよね(笑)
一同 (笑)
内藤 土日とか空いてる時間で、と思いつつもそううまくもいかないっていうのは反省としてあります。
—山形さんも冨永さんも月〜金で働いていらっしゃる状況で、「参加しよう」と思ったか一押しポイントみたいなのはあるんでしょうか?佐野さんは外堀から埋められていったようですが‥‥‥
山形 そうですね。僕に関して言うと、自主で内藤さんがやりますよって言って、佐野さんも手伝ってくれることにはなったんですが、僕は平日は仕事があるので、そもそも撮影に全日は行けませんとは伝えてました。ワークショップやオーディションは土日にやっていたので、そこらへんは対応できていたんですけど、撮影は平日ももちろんありますし、土日だけで全部撮るのは難しい。結局途中から、演出部で参加したいと連絡をくれた中村(洋介)さんという方にいろいろお任せすることにしました。黒沢(清)組とか園(子温)組の経験もある方だったので、その方に演出部をお願いして、スケジュール管理なんかもやってもらってましたね。僕は結局土日や休日は参加してましたけど、全撮影日数でいうと半分も参加してないんじゃないかと思いますね。やれる範囲で手伝ったって感じです。
佐野 あと制作は泉田(圭舗)さんに来ていただいたっていうのもありましたね。僕らの他にメインで泉田くんも現場フルでついてくれたので、それもおおきな助けでした。
内藤 泉田さんと中村さんがいてくれたから、進行できたってところが大きいです。
—作品自体が完成したのはいつになるんですか?
内藤 去年の9月だっけ?
佐野 初号試写がそれくらいでしたね。
冨永 夏に完成。8月に完成して9月に試写だったんじゃないかな。
—やっぱりコロナで上映のスケジュールはずれましたか?
内藤 はい。5月9日に公開予定だったんですけど、コロナで延期になって6月1日に公開しました。
—あ、でもずれたのはまだ一ヶ月だったんですね。まだ、というとあれですけど‥‥‥
内藤 そうですね、大幅に延期する話もあったんですけど、公開待機作が渋滞しすぎてて、そうなるとこういう小規模映画は上映期間・上映時間・上映回数の面でより不利になる可能性が高くて、6月1日になりました。
—実際、上映が始まって、もちろん自主映画が久しぶりというのもあると思うんですが、何か違っているなっていうところはありますか?映画館に足を運ばれていると思うんですけど。
内藤 違うなっていうのは平常時とですか?
—そうですね、コロナ前、と。
内藤 全然違いますよね。まずイベントがなかなか出来ませんでした。初日に舞台挨拶は当然したいと思ってたんですけど、今回に関しては基本的にキャストの稼働は特例を抜いて基本なしっていう方向で。というのも、キャストが登壇したりインタビューするためにどこか移動したことで感染が広がった時に、こういう小さい規模だからこそ余計に責任を負いきれないところもあって。監督兼プロデューサーである僕が限定した時にだけ出るっていうことにしてたんですけど。
でも、出演している役者側には、舞台に立ちたいって想いも強くあって。僕も想いとしては登壇して欲しいんですよ。特に主演の上村(侑)くんは初出演・初主演の作品なんで。舞台挨拶を経験させてあげたいって思ってて。一度だけ(舞台挨拶が)この間叶いましたけど、可哀想だな、申し訳ないなっていう思いはありますかね。それに、フェイスシールドとかマスクつけたりしたままの登壇になって。こういう作品なんで、できるだけQ&Aをやりたいなって思ってたんですけど、最初の段階では控えてて。マイク受け渡す時に感染リスクを防げるのかっていう懸念がありまして。最初は控えてたんですけど、途中から「こう対応すれば大丈夫じゃないか」っていうふうに劇場側ともコンセンサスが取れたんで、2回くらいは開催できたんですけど。思ったようにはやっぱり色々できないですね。
—皆さん、この作品以外にも映画館行かれましたか?
冨永 最近はやっと、ちょっとずつ行くようにはしてますね。行けるようになったなーっていう感じは。ちょっと怖かったですけどね。
佐野 でも、シネコンとかって本当に人少なくて、電車乗るより人が少ないから、むしろ快適だなっていうのはありますけど。
冨永 ありますね。
内藤 ちゃんと換気されてるしね。
佐野 映画館にとっては全然よくない状況でありますけど。
冨永 前の席はだいたい人座ってないとかね(笑)。見る環境としては実は見やすかったり。
—私も『許された子どもたち』で久々に映画館に行ったんですけど。なんだかみんな沈痛な面持ちで行ってましたね(笑)
内藤 まあ、気楽に見てって感じの作品ではないですから。
—みんな、下向いて歩いているので、「なんでそんな顔をしてるんだ?」と思ってました。
冨永 それは、状況のせいなのか作品のせいか、どっちなんだろう(笑)
—最後のクレジットが終わって、明るくなってから沈痛な感じは分かるんですけど、最初からでしたね。
冨永 あ、入る時から。
—お葬式みたいな感じで入ってるから、ちょっと笑ってしまいました。
冨永 ユーロスペースの初日の時、僕ちょっと様子を見たくて、軽く挨拶しようと思って行ったんですよ。6月1日。で、内藤さんとプロデューサーの方たちがいたんですけど。外から見ててもあれですよね。観客の雰囲気とか劇場の雰囲気とか、めちゃくちゃ異様でしたよね。
内藤 ああー。1日は特に異様だったね。何より僕自身すごい緊張しちゃって。
冨永 内藤さんが(笑)
内藤 あんま舞台挨拶で緊張しないんだけど、声が上ずるくらい緊張してたね。
山形 え、異様っていうのはどういうことですか?
内藤 直前まで本当に6月1日に公開できるかもわからなかったし、観客も劇場に行って本当に映画がやってるのかとかがわかんない緊迫感を抱えたまま来てるから、全員の緊迫感が充満してる感じがあって。異様だったな。
冨永 表現しようがないんだけど。初日、満席だったんですよ。来てくれた人たちって、映画館に一ヶ月以上の間行けなくて、行きたい行きたいって思っててやっと行けるようになって、それで『許された子どもたち』を選んでくれた方達だと思うんですけど。嬉しいはずなんですけど、嬉しい反面、なんかね、なんて表現したらいいかわからないんですけど、いつもの感じと違う満席感だったんですよね。なんか空気重いというか。
内藤 そうね。重かった。
冨永 すごい雰囲気だなあと思って。
内藤 ああそうね、単純に満席になったからって、人がいっぱいいるから大丈夫なの?みたいな感じはあったかもしれない。
冨永 なんだか喜べない感じはありました。
内藤 もちろん感染対策して、映画館の中は換気されてるけど、ちゃんとそのへんを踏まえた上で観客が受け止めてくれてるんだろうかっていう不安。ネガティブに取られたらやだなっていうのがありましたね。
冨永 関係ないんですけど、ついこの間『イップ・マン』の完結編を見に行ったんですけど。一席空けるために、一席ごとにドニー・イェンとかが座ってましたね。
一同 (笑)
山形 なんか、Twitterの画像で見た。
冨永 確かにあれ貼られたら座れないなと思って。
山形 シネマート(新宿)はマ・ドンソクだよね。
内藤 そうそう。マ・ドンソクが。
一同 (笑)
佐野 マ・ドンソクかあ。
内藤 渋谷のル・シネマで見た時は名前と連絡先を書かなくちゃいけなくて。
一同 へえー。
内藤 感染経路を明らかにするっていうことなんでしょうけど。それによって「映画館めんどくさいな」って観客に思われるとなんかやだな、とか。でも仕方ないんだけどな、とか‥‥‥ちょっと悩ましいですね。
冨永 でもさすがル・シネマ、そこまで徹底してるんだ。
内藤 うん、きっちりしてた。あの、体温センサーあるじゃないですか。東宝とかもありますけど。文化村のは、「正常です」って言われるんですよ。「ピピッ 正常です」って。
冨永 ダメだったらなんて言われるんだろ。
内藤 「異常です」って言われるのかな、体温が(笑)
冨永 ‥‥‥すいません、関係ないことを話しました。
—いえ、全然(笑)あ、『許された子どもたち』で11期生以外のフィクション・コース生の方って参加されたんですか?
内藤 そういえば、髪切ってくれた方が。
山形 相澤(亮太)さん。
内藤 絆星(キラ)が後半に髪の毛を切るじゃないですか。そのカット担当として相澤さんに1日来てもらいました。あとは、12期の加藤綾佳監督は、以前から知ってるんですけど。‥‥‥(画面を見て)ちょっと、なんで笑ってんの(笑)
一同 (笑)
内藤 えっと、劇中でカラオケ映像貸してくれたのと、現場にも何日か手伝いに来てくれたり、エキストラに来てそのシーンカットしたり(笑)もう一回エキストラに出てくれたりとかしましたね(笑)
冨永 尺の関係で仕方なくカットしましたね。
内藤 尺の関係で仕方なく(笑)
佐野 加藤さんは、キラの家を襲うカップルの一人の役だったんですけど。
内藤 画面に映ってる場面があったんですけど、カットしたんです。
冨永 声だけね、使ってるんですよね。
内藤 声はね、結局あれ録り直してるんだ。
山形 そうですね。あれアクターズ・コースの方でしたよね。
佐野 渕野(実優)さんとか、釜口(恵太)さんとかに。
—結構アクターズ・コースの方達と関わりが多かったんですかね?
内藤 僕は直接ないけど、佐野さんとか関わってるんだっけ?アクターズ・コースの人。
山形 佐野さんから声かけていただいて。
内藤 だよね。
冨永 一期の人は何人か出てるんで。茶円(茜)さんとか、中川(ゆかり)さんとか。
内藤 あ、露木(友子)さんもだね。
冨永 佐野さんつながりっていうのは大きいんじゃないですか?
佐野 泉田さんもアクターズのTAをされていたので、ふたりの人脈を使ってですね。露木さんは臨床心理士なので『許された子どもたち』にもアドバイスをいただきましたよね。
内藤 そうですね、今回は素人の子どもたちが多く出演してて。演技経験もない子たちだし、いじめっていう肉体的・精神的にストレスを感じる撮影ですし、色々聞いた感じ、学校とかいじめに関してネガティブな経験をしてる方もいたんで、フラッシュバックというかネガティブな面の反応が出ちゃうとやだなって、スタッフで話してて。で、カウンセラーの方達に入ってアドバイスしてもらったりケアしてもらえたらいいねって意見が挙がって。
山形 大人役のオーディションで露木さんが来てくれて、で露木さんにお願いしようっていうときに、プロフィールに「臨床心理士」の資格を持ってると書いてあったんです。じゃあ先生役にキャスティングすると同時に子どもたちのカウンセリングも露木さんにお願いできないかっていうことで話をしましたね。
—すごく曖昧な質問で恐縮なんですが‥‥今後自主映画ってどうなっていくのか、ですとかどうしたい、など願望ってありますか?
佐野 難しいですけどね。自主でいうと商業的な基準というかガイドライン的なのからどうしても出ちゃうので。今までも、自主ってどっちかというと「撮れる時に撮っちまえ」的な勢いで撮ってしまうことって結構多かったと思います。そういう作り方も、コロナ禍でも果敢にやる人は出てくると思うのですけど、果たして今まで通りにできるかとか、いいか悪いのかはちょっと考えちゃうところがある。
内藤 多分、自主映画だから逆にやれちゃうケースっていうのはあると思ってて。商業映画の場合、事務所が感染対策の徹底を求めたり、現場の感染対策をチェックしたりすることもあって。当然、所属している俳優を感染者にしたくないですからね。事務所側の要望に応じられない現場は成立しなくなる。
一方で、自主映画に出演を希望する役者の中には、感染対策が徹底されていない現場でも、出演を受け入れちゃう方もいる思うんですよね。「出演したい」って想いが勝っちゃって。事務所に所属していないフリーの方も多いし。自主映画の製作者と出演者の希望が、悪い意味で合致しちゃうケースは起こり得る。正直『許された子どもたち』の撮影がこの状況だったらできなかったなっていうのは思って。子どもたちが多いから、責任を負いきれないなとは思うんですよね。正直今、いくら対策してたとしても(感染が)広がっちゃうことがあるじゃないですか。
冨永 自主映画って、自己責任の温床にもなりかねないところがあると思うので。やっちゃおうと思えばできるだろうけど、やっちゃって感染が広がっちゃった場合誰も責任取れないっていうものだよな、っていう気はすごくしていて。今ちょっとね、佐野さんやアクターズ・コースの人たちと自主映画を撮るかもしれないっていう状況になっていて、どうしようかねっていう話はしているんですけど。
山形 勉強会をこの間したって話を聞きました。
佐野 (映画美学校)事務局の四方さんとかが今、コロナの勉強をかなりされているので、そのへんの知識共有を踏まえて色々教えてもらったりとか。
冨永 でも最近、ついに恐れていたことがというか、撮影現場でちょくちょく陽性者が出始めてるって。
佐野 ああ、ね。
冨永 『ジュラシック・ワールド3』も(陽性者が)出たって話が。
山形 (米)ユニバーサル側は否定してましたけどね(笑)。
内藤 マイケル・ベイのプロデュース作品(『ソングバード』)が、感染対策の基準を満たしてないって組合から批判されて、撮影ストップがかけられてるのありますよね。
佐野 俳優組合が止めましたよね、あれ、確か。
内藤 日本はそういう組合が、そんなに強くないからね。でもそこの意見をちゃんと通るようにしてかなきゃいけないんだろうなとは思います。
山形 一方でちょっとずれるかもしれないんですけど、商業で活躍する監督がこのタイミングで自主映画を撮るって流れがあるじゃないですか。入江悠監督とか。そういったプロの方たちが今この時期に自主映画を撮る際に、どういう対策を取っていくのかということに結構興味があります。実際、感染対策とかかなり慎重にケアしないとおそらくやれないと思うんですよね。商業でやっていない人が自主映画を撮るのとはまた、注目や責任という意味で違ってくるんじゃないかと思っています。
内藤 責任があるよね。映画美学校で自主映画を撮っていたときは、スタッフは友だちばっかだったんだけど、商業映画をやるようになって、専門家ってありがたいなってことを痛感してて。アクションシーンだとアクション監督、スタントコーディネーターがいて、監督が「こうしたい、ああしたい」って言った時に安全な方法を考えてくれるんです。「〇〇したら、監督が望んでることをできますよ」って言ってくれて。でも監督がより自分のビジョンに近いものを求めると、危なくなっちゃう時もあって。キャストとかスタッフも、監督の希望を実現したいというふうに反応してくれて、監督もそこに甘えちゃいがちになるんですけど。アクション監督が「いや、それはすごく危ないから絶対に無理です。でもこういう方法ならできます。ただそれは、こういう準備が必要ですし、このくらいお金がかかります」って、危なければストップをかけてくれるし、実現可能な方法を導いてくれる。その結果、望んでいたアクションが予算内で安全に撮れる。アクションに限らず、あらゆる描写で専門家がいてくれるといいと思ってて。効果的な描写を追求出来て心強いし、撮影に関わる人や現場を守ることも出来る。
僕が自主映画をやってた時に俳優がちょっと怪我しちゃったことがあって。それは僕とカメラマンが現場で思いついたアイディアがあって、事前のシュミレーションもないまま、とあるアクションを突然やろうと言い出してしまったんです。で、俳優側もその気持ちに応えてくれて。僕らはそこまで危険じゃないと思っちゃってたんですよね。でも後から聞いた話では、俳優側は「ちょっと危ないんじゃないかな」って感じていたらしいんです。でも現場を止めちゃうから敢えて言わずに応じてくれたんです。で、望んでいたものが撮れて、現場は進行したんですけど、実はその時に怪我しちゃっていたんですよね。その俳優さんは気を遣って、怪我したことを黙っててくれたんです。黙っててしまわせた、というか。で、のちのちそういう状況があったって聞いて反省して、謝罪しました。専門家のサポートもなしに、現場の勢いで要求していいことではなかったし、怪我を申告出来ない空気だったことも問題でした。
専門家がいて「これなら安全ですよ」ってアドバイスをもらった上でやらないとまずいなと思ってて。だから『許された子どもたち』でもアクションシーンは専門家にアドバイスをしてもらって、危険がないようにっていうのは気をつけたんですけど。そういったことが感染症対策でも必要だろうなと思ってて。やっぱり専門家じゃないと分からないでしょって思うんです。「俺らなりに気をつけました」だけだとちょっと許されないんじゃないかなって思ってます。
佐野 自主だったらなおさらですけど、監督はどうしても「撮りたい」し、俳優は「出たい」っていう気持ちがあってやってると思うので。それにブレーキかけられる状況っていうか‥‥‥みんなで気をつけてても足りない部分というか、それを如何に自覚しながら作っていくかっていうのは必要になってくる感じがしますね。
—ちょっと関係ないかもしれないんですけど。私自身俳優をやっているんですが、先日ある対面のワークショップを受けようと思って書類を送ったんです。感染防止のガイドラインは合格後にもらえると来ていたので、ひとまず書類を送ろうと。それで、ワークショップの案内メールが届いて、文面を見たら「ワークショップは汗をかくものです。ですので消毒を各々きちんとしましょう」だけさらっと書いてあって、ガイドラインはなし。ドン引いたのを思い出しました。
冨永 それ、やめたほうがいいんじゃないですか。
山形 それはちょっと、危ないですね。
—いや、行くのはやめましたよ!
冨永 自己責任の塊じゃないですか。
内藤 舞台演出家や映画監督が絶対君主のように現場で振舞うっていうのが結構良きこととしてこれまでも語られてきたところがあって。「監督がこんな無茶苦茶なことを要求しました」「それにキャストやスタッフがこんな風に応えました」ってエピソードが美談として伝わってて。それはもう、ちょっとよくないんじゃないかなって思っていて。自分自身も映画監督の絶対君主な逸話は楽しんで読んできたんですけど、立ち止まって考え直さなきゃいけないだろうって。
監督とキャスト・スタッフって力関係が非対称性で、監督は強い立場にいる。監督側が自分でも気をつけないといけないし、周りもストップできるシステムにしていかないとなーとは思っていて。そういう意味では『許された子どもたち』のメインスタッフは同期で、僕に意見をはっきり言ってくれる関係性だったので、そこはよかったかなとは思ってますね。
佐野 映画の現場でも、パワハラがあったりとか。世代にもよりますが、昔ながらの徒弟制が映画の撮影現場では、一部残ってたりするところもあって。そうすると現代の基準だと、どうしても上から下にハラスメントになっちゃうというのか、無理を強いるって状況が出てきちゃう。映画スタッフたちの組合による是正っていうのもそれとも関わってくるかもしれませんけど、現場もなるべく今までと違う付き合い方というか、制作体制の更新もいるのかもしれませんね、この先の時代は本当に。
山形 でもコロナ対策で制作体制の見直しが迫られてる中で、そういうパワハラの問題だったり、今まで邦画界の中でそういうものだとされてきたものが、もう一度「本当にそれでよかったのか」と精査されていくきっかけになるなら、そういうのはポジティブなことですよね。
内藤 そうね。うちらの同期でも映画の現場行ってすごい嫌な思いをしてやめちゃった人もいるし。やめた理由も理解できるというか。これは業界側の問題だよな、と思うし。『許された子どもたち』の現場で、ピリピリして、スタッフがちょっと声荒げた時にカメラマンの伊集(守忠)さんが「怒鳴るのはやめましょう」みたいなことを言ってくれて。今回の現場は「怒鳴らない」というテーマが共通認識としてあったんですが、それは続けていきたいですけどね。僕は商業映画に入って、僕自身は怒らないんですけど、「監督なんだからもっと怒れ」って怒られることはたまにあって。
冨永 それはおかしいですよね(笑)。
内藤 そうそう(笑)。「若い役者は泣かせろ!」とか、言うこと聞かないスタッフがいたら「蹴飛ばせばいいんだ」みたいな感じ。「えっ、なんで?なにそれ?」みたいな感じでちょっとびっくりした、そんな古い価値観なんだって。それにミスしたスタッフに手を上げたり、「白痴かよ、お前」とか平気で言うスタッフもいて、驚いた。そこに長くいて、その価値観に染まっちゃう人もいるんだろうなって。だから業界に属する人々全体の意識が変わらないと、変わっていかない。
冨永 多分、僕ら世代の年齢くらいの人たちがちょうど過渡期にいる感じがあるとは思うんですけどね。技師さんとかになって現場にガンガン行ってる人たちは上の世代の人たちの弟子になったりするから、上の人たちはひょっとしたらそういう感覚かもしれないし。一方で、下の代の人とかも現場にはもういるわけで。下の代とかは明らかにそういう感覚じゃないから。なんかね、自分が上からそういう扱いを受けたから、下にもそういう扱いをするのか。いやそれはおかしいでしょ、下に対しては自分たちは絶対にそういうことしないっていうふうにしてくのかで結構変わっていくんじゃないかって気はするんですけど。内藤さんもさっき言ってた通り、上の世代の逸話とかを僕らは結構知ってる世代なんで、それに対して正直そんなに違和感感じてなかったというか。ちょっと前までは。
内藤 ああ、そうね。
冨永 それをちょっとね、面白おかしく感じてたところも確かにあったし、そういう現場から生まれた作品を見てすごいなって思ったりもしてたんですけど。一方で「それっておかしいんじゃないか」っていう感覚もその後知っていくので。なんかこう、自分たちがそうならないように気をつけなきゃなって感じながらも、ひょっとしてそういうところ自分たちも出ちゃってるんじゃないかって不安を感じてもいます。
フィクション・コース第11期修了生インタビュー〜佐野真規さん×冨永圭祐さん×内藤瑛亮さん×山形哲生さん〜(2)へ続く