2018年7月30日締切の「プロット・コンペティション2018」の応募総数は22本でした。

各選考者による選考結果・選評は以下となります。

<プロット・コンペティション2018 選考結果(選考者五十音順)>

【江守徹プロデューサー選出】
弥重早希子『深いところへ、行く』(第6期高等科後期修了生

【小林剛プロデューサー選出】
選出作品なし

【田坂公章プロデューサー選出】
選出作品なし

 

ただし、すぐに実現可能なものではない、という条件付きでの選出です。
作品の作者は、これから選出プロデューサーと顔合わせを行い、具体化を目指して話を進めていきます。

 

各選考者による選評

江守徹プロデューサー
(IKエンタテインメント・プロデューサー)
応募者のそれぞれ深く人生模様を活写した作品群22本と丹念に対峙する日々は全くクタクタに疲れましたが、同時にとても豊かで楽しい時間でもあった。

選ばせてもらったのは弥重氏の『深いところへ、行く』。
特にここ最近、私自身が巷のSNSやメディア姿勢に対し、気持ち悪い・ソワソワする・やるせない思いを強く抱いていた。その黒い感情をエンタテインメントに昇華し世に出せる切り口の一端を示してくれた作品。
後半の物語の回収方策や家族人物の描写の掘り下げなど、まだまだ随分と青さは残るが、それでも“今”を映し出すものとして立脚している点を買いたいと思う。

又、以下、今回選にはもれたが次作に期待したいし、私自身読んでいて幸福な時間を過ごしたものを挙げる。 みやたにたかし氏『失踪宣告』、篠塚智子氏『秘密のシー!』、田畑るり氏『アイ・ガット・リズム』、太田慶氏『流れ星逃げた?』、梅村このみ氏『疾走する愛』、加藤高浩氏『ありえたはずの僕ら』

最後にこのような試みはこれからの映画映像業界の先を鑑みるに非常に大切な事だと改めて真剣に思う。 形は変われど継続的にこの未知の才能をすくい上げる動きが続くことを願う。



小林剛プロデューサー】
(㈱KADOKAWA 映像事業局 コンテンツ事業部 プロデューサー)
随分悩んだのですが、どうしても今回は私の選考受賞作として一本を選ぶことが出来ませんでした。今回は選考を担当した過去二回に比べても、ジャンル、物語の方向性、方法論がバラエティに富んでいる印象を受けました。王道の成長物語、昨今恋愛事情、ブラックコメディ、伝奇ホラー、SFテイスト等、画一されていないベクトルは個人的にうれしく、応募者皆さんのオリジナリティへの訴求はいつもより強く感じました。ただ、それぞれのジャンルへの突っ込み方がやや甘く、題材にするならもう少し対象への知識を深めておいて欲しいと思うこともしばしばあったことも事実です。限られた分量の文字の中で、まず読むものに物語世界観を解からせ、キャラクターに入り込ませ、物語で心を揺さぶる。その下地になるのは、虚構のための骨格であると思います。オリジナル企画は皆さんの頭から生み出された、唯一無二の世界です。裏返せば、皆さんが作り出す大嘘の世界です。そこを信じさせる力が今回は弱かったように思います。その中で、「流れ星逃げた?」は作者のジャンルへの愛が溢れていて、個性的なインテリヤクザ等、キャラクターがとにかく魅力的でした。ただ、映画のトーンがはっきりせず、無国籍ロマン路線をもっと推し進めてはと思いました。「深いところへ、行く」は既視感のあるテーマと思って読んでいくと、主人公の行動がどんどんエスカレートして、そのはずれていく具合が面白く新鮮に感じました。随所に説明のされない寓話的な箇所があるのも好みでしたが、物語主軸の典型的な印象を拭い去るまでの破天荒さがないと感じました。「アイ・ガット・リズム」は愚直なまでにストレートな物語に大いに好感を持ちました。差別、偏見や異文化との融和という今日的なテーマも飾らず盛り込まれ、その生真面目さに惹かれます。もう少しだけお話に起伏、うねりがあれば、もっと面白いのではと思いました。単純ですが、起承転結がはっきりするだけで随分と印象は変わります。以上偉そうに論評しましたが、今コンペの選考をお引き受けしているのは、長らく商業映画に携わった経験からどういったプロットが映画会社の企画のテーブルに乗せ易いのかが私には判り、それをお伝えしたいと思っているからです。今回も皆さんの熱を感じさせていただき有難うございました。そして、次にぜひ“この仕事で飯を食う”というステージでお会い出来ればと思っています。


田坂公章プロデューサー(日本出版販売(株)エンタメ事業部映像事業課 プロデューサー)
まず、今回このような機会を与えて下さった映画美学校および応募者の皆さんに感謝申し上げます。読みごたえのある作品ばかりで大変良い刺激になりました。
賞を与えるタイプのコンペではなく、企画プレゼンに近いものだということで実現性の有無も含めて読ませて頂きました。結果、今回は映画にしたい、ご一緒させて頂きたいと思える作品はありませんでした。
描写が上手いものや映像化を具体的にイメージして書かれたものなど読ませる作品はいくつかありました。しかし企画の背骨になるもの=コンセプトがハッキリしたものはほとんどありませんでした。企画で一番大事なのはコンセプトだと思います。よく聞く「内容を一言で説明できない企画はダメ」というやつですね。私もアホほど言われてきました。世の映画が全てそうだとは言いませんが、今回のコンペでの私の判断基準はそれが全てです。コンセプトさえ明確で揺るぎないものであれば、そこから内容がアレコレ変わっても(変えられても)「まあオッケー」と思えるのではないでしょうか。プロット/シナリオ執筆者である皆さんは企画者でもあります。そのことを意識して今一度ご自身の書かれたものを読み返してみてください。お客さんは皆さんの考えたコンセプトを観に劇場へ行くのです。どうですか?「別にこれ映画じゃなくてもいいや」と思えてきませんか?
加藤高浩さんの『あり得たはずの僕ら』は実際の事件をモチーフにしていることもあり骨子が明確でした。この話はシンプルにした方が面白くなる気がします。シナリオにして柱を整理することで、今ある登場人物の動線の無駄が省けるかと思います。
篠塚智子さんの『秘密のシー!』はどこか既視感のある世界観、登場人物とその配置ではありますが、美しい自然と子供たちを心地よく描いており残酷描写との対比にワクワクしました。真ん中に「しーちゃん」という空洞を置いているのがよく効いていると思います。ラストにかけての性急さと「しーちゃん」の使い方は一考かなと思います。
梅村このみさんの『疾走する愛』は「夫の視点のみでDVを描く」というコンセプトそのものは面白かったです。加害者側の視点のみで暴力を描くとき、その理不尽さは強靭なものになるのだと勉強になりました。ただ、夫があまりにステレオタイプな考えしか持っておらず「なぜ、女性に暴力を振るうのか?」という梅村さん自身の疑問に、このプロットは回答できていないのではないでしょうか。
以上です。皆さんありがとうございました。今後のご健闘をお祈り申し上げます。

 

 

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