フランス映画祭マスタークラスとして、2017/6/21(水)に行われた海外ゲスト特別講義。今年はポール・ヴァーホーヴェン監督の他、フランス映画祭で応援団長として来日された女優のカトリーヌ・ドヌーヴさんのマスタークラスも行われました! 今回は当日の様子を映像翻訳講座基礎科受講生の松山にきさんにレポートしてもらいました。

DSC_2043左:筒井武文さん(映画監督)、右:カトリーヌ・ドヌーヴさん

6月21日、カトリーヌ・ドヌーヴのマスタークラスが映画美学校で行われました。本当にあのドヌーヴさんが来るのか、直前までずっと半信半疑でしたが、本当に来校されました。

私にとって、カトリーヌ・ドヌーヴさんは、本当に役そのものを生きているような、神秘的なイメージがありました。夢のような美しさで、表面の冷静な感じに反して、心の中では強い情熱や信念を秘めているような、映画を観ていて本当に本人もこんな人なのじゃないかと思わせるような、そんな印象がありました。

けれども、講義で話をされているのを聞いてそれは全く違うと思いました。当たり前であるのかもしれませんが、本当にプロフェッショナルの俳優なのだと思いました。そして映画の役以上にとても魅力的な人でした。

この日司会をされたのは、映画監督で東京芸術大学講師、映画美学校の講師でもある筒井武文さん。オリヴェイラ、ブニュエル、ロバート・アルドリッジ、ポランスキー、トリュフォー…。様々な映画監督と仕事をされてきたドヌーヴさんから、監督の実際の印象や撮影の裏話を引き出して行きます。その中でも、ドヌーヴさんが一番語気を強めて話をされていたのは、ジャック・ドゥミ監督との話でした。本当に俳優の仕事が何かを学んだのはジャック・ドゥミ監督と仕事をしてから、と言います。

IMG_5611「ドゥミ監督はショットの作り方にしてもシーンの作り方にしても複雑です。そして長い移動撮影もあります。そうした準備にとても時間がかかります。ドゥミ監督と仕事をしてから、そうした技術的な側面に対して自分が開かれた状態になり、忍耐心もできましたし、技術を尊重するようにもなりました。それが他の監督に対しても同じように続いていったのだと思います。私はたとえ撮影の時に撮影の準備にとても時間がかかったとしてもじりじりしたりしない、忍耐心ができました。当時はわかっていなくて、今になって知った事もありますが、いったん技術がわかると忍耐心ができます。撮影の準備が終わり、完璧に整うと、カメラを回すためのリハーサルが行われ、その瞬間からはすべて俳優のための時間になります。実際に俳優がカメラの前で演技をする時間は撮影現場で俳優が過ごす時間に比べて本当に限られてものになります」

ドヌーヴさんは「時間」「忍耐」という言葉を繰り返して出されていたのが印象に残りました。限られた時間の中で全てを表さなければならない映画の現場で、時間というものをいかに意識しているのか、映画を観ている私たちにはそのことを感じさせずに、そのギャップに改めてプロの俳優なのだ、と思いました。

(映画の中で)演じることで最も重要なことについて、受講生の方から質問を受けた際も、

「映画は演劇と違って自分が使える状態にあること、我慢強くあることがとても必要となってきます。それはとても難しいことだと思います。撮影現場の中で過ごす1日の中で、実際にカメラの前で演技をする時間はとても限られています。しかしその限られた時間の中で、強度を出さなければなりません。この強度が最も求められているものだと思います。映画と関係のない人が撮影に見学に来たりすると、その人たちは、なんて退屈なのだろう、なんて長いのだろう、なんて遅いのだろうと言います。けれどもその人たちは気が付きません。外からやってきて、何かが起きるのをただ待っている。その人たちにとっての時間は、俳優が現場で過ごす時間とは全く違います。演技の一部だとはいわないけれども現場で待機している時間は、その流れ方は、時間の意味が外の人とは違いますし、時間そのものが違うと思います」

と語られます。

IMG_5578映画に関して現実を持って話をされているのを聞いて、ショックを受けるというよりは納得させられることが多くありました。中学生の時に『ロバと王女』ではじめてカトリーヌ・ドヌーヴを見た時、この世の中にこんなきれいな人、こんなきれいな世界があるのだと思いました。その美しさ、数々の名作の裏には、途方もない忍耐力と一瞬にかける集中力の上に成り立つものなのだとわかりました。

役の中の要素についての話も印象に残りました。60年代~70年代、監督がドヌーヴさんの中にあるものを引き出そうとしたのではないか、という質問に対して、

「私は、各監督がわたくしの中で、主題やその登場人物に合った側面を見せようとしたのであって、私の中にそれがあるのか、また私が誰なのか、そうしたことを示そうとしたものでないと思います。私の中に隠れた方向性があってそうしたものを出そうという考えではないと思います。自分が見せたいと思う人物、つまり俳優の側の気質性質を登場人物に即した性質を使おうとはするけれど、本当にその俳優がどんな人間なのかを監督が探そうとしているとは思えません」

と語ります。役と自分は全く違う、と語られますが、カトリーヌ・ドヌーヴさんは役と本人の結び付きが強く印象に残るように感じます。映画を作る人に求めること、を聞かれた際に、「撮影に入るとその映画のことだけを考えて、その中に完全に自分を投入することを求めます。」ときっぱりと話をされました。自分を投入、とは作っている映画に完璧に関わること、自分が達成したいと思っている目的に、完全に集中してそれに向かうことだと補足されます。完全に投入する、そこに何か役を引っ張らせてしまうような、危うさを感じるからなのかもしれないと思いました。

講義の最後に、半世紀以上仕事をされてきて~と受講生の方の質問の前置きに対して、大きく笑われていました。半世紀といわれてしまうと100年200年前から仕事をしているようで笑ってしまいましたとのこと。様々な作品、監督との思い出をまるで昨日のことのように語られていて、ドヌーヴさんにとって映画はまさに今現在のこと、とても嬉しく思いました。IMG_5546

映画美学校では、海外のゲストをお招きしての海外ゲスト特別講義を随時行っており、映画美学校受講生は参加することが可能です。

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