16ミリフィルムによる映画制作者育成ワークショップ最終講義(芦澤明子×山田達也)
●16ミリフィルムワークショップを終えて
今や失われつつあるメディアである16ミリフィルムに触れ、「デジタル撮影では決して得ることの出来ない「不便さ」と「想像力」を体感する」ことを目指して始まった[16ミリフィルムによる映画制作者育成ワークショップ]。第一回目の実習作品『barricade』(7分/サイレント)は、各シーンごとに受講生10名全員が交代でキャメラマンを担当して撮影を行い、第二回目の実習作品『恋人よ』(20分/トーキー)は、撮影・照明・録音・演出といった全パートを受講生がローテーションで担当し、同一シナリオから5種類の作品を生み出しました。
去る2月27日、約3ヶ月間のワークショップを締めくくる最後のイベントとして、ユーロスペースにて実習作品の上映会を行いました。上映後は、キャメラマン・芦澤明子さんをお迎えし、本ワークショップの講師であるキャメラマン・山田達也さんとともに、ワークショップでの活動を振り返りながら、熱いトークをしていただきました。下記は、そのトークをまとめたものです。
●今、フィルムに触れることの意義
山田「芦澤さんは“フィルムで撮る”ことの継承に積極的に関わられています。今、デジタルの時代になぜ、フィルムで撮影するということを残して行かなくてはいけないと考えていらっしゃるのでしょうか?」
芦澤「今はフィルムでの上映がほとんどなくなり、フィルムで撮影しても何らかの形でデジタル化しなければなりません。しかし、フィルムの良さ、粒状生の良さ、やわらかさはどうしてもデジタルでは出ないという風に確信しています。だから、それを今、DCPという最新のテクノロジーの中で上手く活かすと、フィルムの技も、かえってデジタルの力を借りてより良いものになるんじゃないかと思っています。ところが、フィルムで撮るという泉を枯らしてしまうと、今度はそういう風にやろうと思っても、やれる人がいない、ということになってしまうので、その泉を枯らさないようにしなければならないと考えています。デジタルもいいけれども、フィルムという表現方法も残して、デジタルの海の中で上手く泳ぎ回れるといいなと思っています。」
●フィルムの美、デジタルの美
山田「芦澤さんにとって、フィルムの時代で育って来たことが、今デジタルの時代でどういう風に活かされていると思われますか?」
芦澤「演出の狙いに寄り添うためには、デジタルという方法を使った方がいいのか、フィルムの手法を使った方が良いのか、という選択肢があります。フィルム育ちの人たちは、あるテーマを監督に言われたときに、それじゃあフィルムのこういう部分を取り入れましょうと提案できるので、その分表現域が広くなります。ところが、フィルムを知らないと表現域が狭くなってしまいます。デジタルだけをやっている人は、色々なことが出来るようで、意外と狭いという気がします。作品に対する“美”というものが、“デジタルの作る美”1つではなくて色々な“美”があって、その作品に一番いいものを選べる。その選択肢の広さを、フィルムを学んだことで得られたと思います。」
●想像力を使って表現する
山田「今回のワークショップの撮影では、全員が「キャメラマン」を経験したわけですが、“ファインダーを覗いているのがキャメラマン1人しかいない”という緊張感の中、“何テイクも回せないのでリハーサルを重ねる・どう撮るかを熟考する”といったことに神経を注いで取り組んでいたように思います。今はもう普通に液晶が付いていて、色々な人が見ながら色々なことを言う、ということが多く、なかなか体験できないです。」
芦澤「私が初めてファインダーを覗いたときは、すごい観客だなという感じで覗いていました。液晶だとやはり距離がありますが、ファインダーだと光が入らないように、ぐうっと前のめりになって集中できるという感じがあります。それに、映っているものがすぐには観られないので、想像力が広がります。その想像力を使って表現するということがより良い効果を生むことが多いような気がします。フィルムだと現像してみないとわからないので、失敗も多いじゃないですか。失敗した方が良いです。デジタルだと失敗しようがないようにできているので、それはつまらないですよね。」
●撮影・編集方法の変化
山田「ノスタルジックにフィルムが良いと言っているのではなくて、今は誰もが撮影できて、編集できるという状況の中で、よく思うのが、例えば、アップショットが多すぎるのではないか、といったことです。いわゆるパソコンで編集しているとそれでいいんでしょうけど、スクリーンで観る時にどうなんだろうと思うことがすごくあります。それと、今回のワークショップでもそうでしたが、リハーサルをちゃんとやって、どう演出するのか、どう撮るのかということをお互いに理解してから撮影すると。最近は、色々な角度からいっぱい撮って、編集のときに悩みます、という監督が多くなって来たように思うんですが、その点どう思われますか。」
芦澤「たしかにそういう傾向にはありますが、やはり監督もキャメラマンも現場である決断をしなければならないわけです。より決断を求められるのがフィルムじゃないかと思うんですね。無制限ではないので、打ち合わせやリハーサル等をより丹念にしなければならない。そうするとやはり、現場に緊張感が生まれ、芝居も研ぎすまされていい感じになると思います。そういう意味ではプラスですし、逆にデジタルの方ではいわゆる無制限に回して、個人で編集することでいい味が出るという作品もあるわけですから、それはそれでいいですが、こういうことは映画の中で一番大事なことではないかなと思います。映画というのは一人作業ではないですもんね。パソコン編集も良いけど、ある段階で何人かで、大きい所で観る、というのが映画ですよね。スクリーンで観てこそ映画、ってしょっちゅう言ってるんですけど。フィルムというのはケミカルなので、何が起こるかわからないという摩訶不思議なところにゆだねてみる、というのも表現として面白いんじゃないかなと思いました。」
●最後に
山田「最後に、今後映画づくりをやっていきたいと考えている皆さんに、一言お願いします。」
芦澤「表現方法というのは作品によって千差万別ですから、表現域を狭めないように。16ミリは16ミリの良さを残していくために、そこから色んな発展の仕方があります。フィルムも色々な変化をするかもしれないので、そのノウハウをじっくりつかんでおいていただければ、絶対その後の映像人生にプラスになると思います。色んな種類のものを学んでください。美は一つじゃない。8ミリの美が似合う作品ものもあれば、35ミリの美が似合う作品もあるかもしれない。そういうことが選択出来るように、皆で努力していきましょう。」
(構成・淺雄望)
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