フィクション・コース初等科の修了制作で撮った短編『牛乳王子』(08年)をはじめ、『先生を流産させる会』『廃棄少女』(共に11年)と、一般未公開ながらその鮮烈な手腕ですでに注目を集める内藤瑛亮に訊いた。(取材・文:小川志津子)

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まずは、映画美学校に入るまでのことを聞かせてください

母親が、もともとホラー好きだったんです。小さい頃から週末のたびに、レンタルビデオ屋で借りてきたホラー映画を、ごく普通に見せられていて。学生になってからは、漫画や演劇をやってみたりもしたんですが、それもあまりピンと来なくて。ひょっとしたら自分は映画が作りたいのかもしれない、と思ってつくりはじめました。スタッフワークは全部ひとりでやっていたんですけど、ひとりでは限界を感じて、仲間を作るためにまず映画の学校に入ってみようと思いました。

映画美学校に決めた理由は?

そもそもがホラー好きなので、『リング』(98年)の脚本を手がけた高橋洋さんが教鞭をとっておられるということと、あとは第1期生の清水崇さんのサクセス・ストーリー感も決め手のひとつでした(編注:フィクション・コース初等科で提出した「3分ビデオ課題」が見出され、のちに『呪怨』を制作。ビデオ版から映画版、ハリウッド・リメイク版に至るヒット作となった)。でもその一方で、あまりよくないイメージもあったんです。ものすごくシネフィルの、頭のカタい感じの人が多いんだろうなあ、とか。俺は絶対にそっちには染まらない! という決意のもとに入学を決めました(笑)。でも実際は、そんなことはなくて。普通にハリウッドのメジャー系映画が好きな人とか、むしろ映画をあまり観たことがないという人もいたりして。いろんな意見を持つ人たちと、映画について話すこと自体がとても楽しかったです。

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入学してからの実感は?

約半年間かけて課題提出と講評を重ねることで、最終的に「修了作品」としてクラスから何本かが選ばれるわけですが、正直「選ばれたい」とは最初から思っていました。でも実のところ、講師陣から「それ、面白いよ!」と全面的に肯定されたことは一度もないです。同期も常に批評的に僕の課題や作品を捉えてくれています。『牛乳王子』のアイデアは一番最初の「ビデオ課題」の時点からすでにあったんですが、今でも忘れられない強烈なダメ出しがたくさんありますね。でも、そこで心折れたり、耳をふさいだりは、したくないと僕は思っていて。ほめ言葉って、その先へ広がっていかないじゃないですか。今の自分にできる範囲、のみに留まってしまう。でも僕は、その先へ行きたいと思っていたので。『牛乳王子』では“人間ドラマ”を描く能力が自分には全然足りないということを思い知らされたので、じゃあどうすればそれを描けるようになるのか、どうすれば『牛乳王子』を受け入れられなかった人にも届く映画が作れるのか、というのが高等科で撮った『先生を流産させる会』のテーマでした。

たしかに、面白半分のいたずらがエスカレートしていく中での、中学生と教師の揺れと格闘が真正面から描かれています。

『先生~』では同期の仲間から2人、共同脚本として参加してもらったんです。松久育紀さんと、渡辺あいさん(『電撃』監督)です。僕のホラー嗜好を、まったく共有しない人たちです(笑)。だからこそ僕が趣味性に走ったらブレーキをかけてくれるし、違う視点からジャッジもしてくれる。妙にほめ合うでも、足を引っぱり合うでもなく、とにかく作品を良くするために頭をひねる。そういう仲間ができたのは、この学校ならではのことかもしれません。MOOSIC LAB2012で発表する短篇のホンも2人に手伝ってもらっています。

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現場の雰囲気はどんなふうでしたか?

そもそも、この映画に出てくれる10代の女の子が果たして居るんだろうか、というのがまず最初の懸念でした。僕の前作はあんなふうだし(笑)、しかも設定が設定ですから(編注:妊娠中の担任教師を流産させようと、女子中学生5人が結集。実際にあった出来事を元にしている)。20代の女優さんに中学生役をやってもらおう、みたいな案もあったんですけど、でも僕はもっと生々しい映画にしたかったから、何としても実年齢に近い女の子で行きたかった。知り合いのつてをたどって、親御さんに作品の意図を細かくお伝えしたり、みんなで遊ぶワークショップみたいなこともやってみたり。そうするうちにだんだん、子どもたちが心を許してくれるようになったんですね。合宿にも行ったりして、結びつきが強く濃くなったというか。撮影後、みんなで遠足に行ったり、BBQをしたりもしました。脚本の段階では、彼女たちは劇中、一切笑わない設定だったんですよ。でもオフのときにみんながきゃあきゃあとふざけあっているのを見て、ああ、この顔も撮りたいなあ、と思うようになった。僕らの、事前の計画をはるかに超えた瞬間が、いくつもありました。

ご自分の作品を、どんな人に届けたいと思いますか?

僕とは違う価値観を持つ人の目に触れさせるのは、大事なことだと思っています。「これは未熟な作品だから」「ただの習作にすぎないから」って、外の人たちの目に触れさせないのは違うように思うんです。キャストもスタッフも相当な苦労をして作品を完成させるために尽力してくれました。1人でも多くの人に届けるのは監督の責務です。共鳴してくれるのか、拒絶されるのか、それは観客に届けてみなければ分かりません。観客のリアクションがなければ、次には進めません。そう思って、『牛乳王子』はありとあらゆる映画祭に応募しました。落ちまくりましたけど(笑)。でも映画祭に関わった映画監督やプロデューサーから声をかけていただいて、商業ベースの作品にも何本か、関わりつつあるところです。

そうやって、コンスタントに創作を重ねる原動力とは?

このままじゃ、ヤバい。っていうことですかね。このままではただ“よくわからないけど気持ち悪い映画を撮った人”として消えていくんじゃないか、って(笑)。撮り続けていくには、成長し続けなくちゃいけないと思うんです。もしかしたら僕の前作を観た人が、次の作品を観てくれるかもしれない。そのときにどう思われるか。あるいは今まで僕の作品に興味を持ってくれなかった人と出会うためには、どういう作品をつくるべきか。ということを、頭のどこかで意識しながら作っています。