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映画美学校には各クラスに「TA(ティーチング・アシスタント)」と呼ばれる兄貴がひとりずついる。かつて映画美学校のカリキュラムを修了した先輩たちが、授業が滞りなく進むようにバックアップしているのだ。今日集まった3人は、全員がフィクション・コースの修了生。映画美学校の何たるかを、授業の最前線で追体験しているとも言えよう。その実感を聞いた。

やってみながら考える場所

皆さんは、主にどんなお仕事をされていますか。

tazadan1星野 僕はフィクション・コースの初等科と高等科に付いていますが、講義がスムーズに行われるように事務的なアシストをしたり、あとは技術実習の授業で、講師だけではフォローしきれないところをサポートしています。
 
石川 僕はアクターズ・コースに付いています。主にその授業内容を撮影・記録して、「1年間を通して、見る」ことが自分の仕事かなと思っていますね。
 
冨永 脚本コースはひとりの講師が1年を通して授業を受け持つので、TAになってから勉強になったことがいくつもあります。フィクションの受講生だった時にわからなかった講師の言葉が「ああ、あれはこのことを言っていたのか!」って急に思い出されたりしますね。
 
星野 それは僕もすごくあります。僕は現場で撮影部の仕事もしているんですけど、授業を聞きながら「そうそう、そうなんだよ!」って思うことが多いですね。ひょっとしたら、TAが一番授業を楽しんでいるのかも(笑)。

そもそも、皆さんは在学中、フィクション・コースにおられたわけですよね。

星野 僕は当初は批評家志望だったんです。高校時代は、年300本は観てました。大学で映画を制作するサークルに入り、何本か映画を撮って、そこで映画美学校のことを知って。漠然と「映画監督になれたらいいな……」と考えてはいたけど、まさかこんなにがっつり、撮影の仕事をするようになるとは思っていませんでした。
 
冨永 僕も大学で映画サークルに入って、ほんっっっとうにしょーーもない映画を撮ってました(笑)。これはいかん、もっとちゃんとしたものを撮れるようになりたい!と思ったんです。映画美学校は、いろいろある映画学校の中で、一番ちゃんと映画を撮っているんじゃないか、という印象があったので、決めました。
 
石川 僕も冨永さんと一緒で、自主で撮った映画が爬虫類の映画で、役者に対してあまりにも駄目なアプローチしかできなくて。動物のことばっかりで。それで基礎から学びたいと思って。
 
星野 フィクション・コースはある意味、自分の行く道について、いろいろとやってみながら考える場所なんだと思うんですね。僕自身、授業で学ぶうちに「あ、自分は撮影がやりたいんだ」と発見していきましたから。最初からカメラマンになりたいんだったら、映画美学校へ来る必要はないんですよ。現場へ出て撮影部に入ればいいんだし、撮影技術についてもっと特化した専門学校や大学がいっぱいあるし。
 
石川 特にフィクション・コースは、技術面と、脚本書きや演出についてを、総合的に考えさせられますからね。
 
星野 現場の仕事で撮影部に入ると、映画美学校の先輩とご一緒することが多いんですが、ここまでシナリオを読み込んで現場に入れるのは、やっぱり映画美学校で学んだからだよなあっていう話をよくします。文字の上では疑問にも思わなかったようなことでも、実際に動いてみたらぎくしゃくしたりする。そういう部分をシナリオから読み取って対策を打てる力が、僕らにはあると思うんです。授業が一要素に特化していない分だけ、苦労する部分は多いかもしれないけど、でもおそらく映画の“胆力”というか、作品に食らいつく粘りみたいなものが、この学校で身についたような気がしますね。

「映画を作るコース」です

tazadan3石川 アクターズ・コースは俳優、脚本コースはシナリオと、目的が特化されているじゃないですか。だからフィクション・コースは「映画監督コース」だと思っている人が結構多くて。でも僕の実感としては、そうじゃないんですよ。身体も脳みそもフル活用して、映画作りにまつわる全般的なことを体感する1年間。だからフィクション・コースは映画監督コースではなくて、「映画を作るコース」なんだと思うんです。
 
冨永 ほんとそう思う。演出も撮影も照明も録音も、もっと言えば出演だって、自分たちでやりますからね。
 
石川 僕がフィクションを経てアクターズ・コースに興味が湧いたのも「俳優さんってこんなことを考えてるんだ!」という驚きがあったからなんです。僕がフィクション初等科で修了作品を監督した当初は、俳優さんにあれやこれやとお願いしたけど、でもあの時必要だったのはそんな言葉ではなかったんだ、ということを実感として理解できた。自分の映画を作るにあたって、そういうことを踏まえた監督でありたいと思ったんです。
 
冨永 今思うとフィクション・コースは、自分の欲望を作家的に見つけていくコースだったなと思うんですね。巧くなることを目指すのではなく、自分が無意識に持っている欲望を、どう表現するかを問われていた気がします。『へんげ』の大畑創さんも『先生を流産させる会』の内藤瑛亮さんも、いろんなバランスを図りながらも、その一点を貫いているんですよね。それ無しに映画を作ってしまうと、自分の映画を心の底から「これが一番好き!!!」っていうくらい愛してくれる人には、出会えないような気がします。

そのあたりは、今お話をお聞きしながら感じました。皆さんは「TAとして」ではなく「作り手として」この場所におられるのですね。

冨永 確かに、僕は自分のためにこの仕事をやっていますね。いつか自分で面白い映画を撮るために、TAをやっている。「5年後に講師の座に就きたい」とかではまったくないです(笑)。
 
石川 髙橋洋さんもよくおっしゃいますよね。どんな正論を並べることより、自分たちが格闘し、楽しんでいる姿を見せるしかないって。僕も当時は、夢中になること以外に何もできなかったなあ。冬の現場で、待ち時間中、俳優さんにはコートをかけてあげよう、っていうささやかな気遣いすらできないくらい夢中でした。映画人というよりは人間として、基本中の基本なんですけどね(笑)。
 
 星野 自分の仕事だけでいっぱいいっぱいになっちゃいますからね。でもいろいろと勉強して、技術が身につくうちに、余裕ができて、周りが見えるようになるんですよ。そのためには、やっぱり技術は絶対必要。しかもそれが自分の好きなことだったら、こんなに幸せなことはないと思うんです。
 
石川 映画って結局、スクリーンの中だけで作られてるわけじゃないんですよね。まずは演出や撮影スタッフが、スクリーンの外側から映画に手を入れて、それから俳優がスクリーンの中で映画を作る。そうやっていろんな角度から、総合的に現場を見渡すことができればいいなと思いますね。

一緒に作る人でありたい

tazandan2星野 フィクション・コースはやることがたくさんあるから、どうしても「教える人」と「教わる人」に分かれてしまいがちなんですね。でも僕らは最終的には「一緒に作る人」になれたらいいなと思うんです。仲よくなっても、愚痴を言っても、ケンカしたってかまわない。何らかのコミュニケーションを交わして、映画を作るということのスタートラインに、一緒に立てたらと思うんですよ。
 
冨永 実際には、受講生の方が全然上手(うわて)だったりもしますけどね(笑)。脚本コースの一番最初に、みんなが初めて書いてきたあらすじを読みながら「うめえなあ……!」ってのけぞりました。
 
石川 だから感覚としては僕らも「同志」なんですよ。同じ授業を受け、同じように感じて、同じように発見している。そしてそれらをいつか、自分の映画につなげたられたらと思っているんです。

では最後に、映画美学校に入ろうとする方に、何かアドバイスをお願いします。

星野 この学校を出たからといって、何らかの道が用意されているわけではありません。もしかしたら、新たな問題にぶち当たってしまって、道を戻ることもありうるわけです。でも、それこそが映画作りの始まりだと思うんですよ。
 
冨永 髙橋さんがよく受講生から「観るべき映画は何ですか」って聞かれるんだそうです。時間を無駄にしたくないから、観るべき映画だけを観たいのだと。でも、そんなものはないんですよ。クズみたいな映画から、めちゃくちゃ面白い映画までを手当たり次第に観て、その中から自分なりの「面白い」を探すしかない。
 
星野 そうそう。人生に、効率なんてものはありえない。愚直にやっていくしかないし、愚直に映画を観るしかない。っていうことが、この学校では体感として、わかると思います。
 
石川 最初はみんな漠然と「映画が好き」っていう気持ちで入ってきますよね。でもここに来ると、その「好き」に確信が持てるようになると思います。「ああ、だからこの映画が好きなんだ!とか「映画って、こういうところが面白いんだよな!」って。
 
星野 それと、ヘタをいっぱい打つといいですね。ヘタを打って「こういうこともありうるんだ」って学んだり、あるいは意図していなかった面白いことが起きて自己発見したり。
 
冨永 恐れずに失敗してほしい、というのは僕も強く思います。カリキュラムを修了して何年も立つのに、今もなお講師陣の言葉が思い出されてくるのは、講師自身が、たくさん失敗して、試行錯誤の末に獲得してきた言葉だからじゃないかと思うんです。だから僕自身も含めて、一緒にたくさん失敗しましょう、って言いたいです。
 
石川 でもいつか、僕も言ってみたいな。みんなの胸に、何年も残る名言を。例えばそうだな……「脚本とは、白い紙と黒い文字である」!
 
冨永 薄っっ(笑)!

(取材・文:小川志津子)

冨永圭祐
現在、脚本コースTAとして勤務。フィクション・コース第11期初等科・高等科修了生。高等科修了制作として『乱心』を監督。
 
星野洋行
現在、フィクション・コースTAとして勤務。フィクション・コース第12期初等科・高等科修了生。撮影部として『電撃』『MAGMA』などに参加。
 
石川貴雄
現在、アクターズ・コースTAとして勤務。フィクション・コース第13期初等科修了生。初等科修了作品として『くちびるコミュニケーション』を監督。