「ガールズ・エンターテインメント」二次審査会再録
【「ガールズ・エンタテイメント」2次審査・選考会議】
高橋洋(脚本コース・フィクション・コース講師/映画監督・脚本家)
村井さだゆき(脚本コース講師/脚本家)
大工原正樹(フィクション・コース講師/映画監督)
高橋 まず、8本に絞り込んだ基準を。1次審査を担当した小中さんの言葉によると「商業性」ということでした。つまり、企画として成立しているかどうか。
大工原 はい、商品になりうるシナリオかどうか、というところですね。この2次審査でも、低予算ながら商業映画として勝負できる企画性があるかどうかを基準に選んでもらいたいと思います。今日はここから3本選びます。では高橋さんから、最終候補になりうると思うものを挙げていただけますか。
高橋 企画としてのつかみ、僕自身が読んでて乗れたかどうか、それから予算などの現実性。3つぐらいポイントがあると思うんですが、それらを満たしているなと思ったのは『夢みる瞳』だけでした。
村井 僕はまず、梗概をひと通り読んだんですね。その時に「これ行けそうだな」と思ったのは『夢みる瞳』と『サバイバーズ・ギルト』。それからひと通りシナリオを読んだ結果、アリかなと思ったのは『リバーサイド・パパ』と『かぞくの数学』と『夢みる瞳』でした。『サバイバーズ・ギルト』は、梗概は良かったけど、読んだ結果、無いなと思いました。
大工原 読み物として面白く、自分の好みもあって、最初に強く印象に残ったのは『聖女のミッション』でした。ただ、企画の実現性、テーマの明確さ、描写の確かさ、ヒロインをはじめとする登場人物の魅力など、トータルで考えて、一番推したいと思ったのは『夢みる瞳』です。一番が『夢見る瞳』、次が『聖女のミッション』、3本目を挙げるとしたら『かぞくの数学』ですね。……なんかもうすでに一本は決まってしまった感がありますが。
村井 『かぞくの数学』にも2票集まってはいますね。
高橋 3本選ぶとしたらもう1本ですか。
大工原 そうですね。
『リバーサイド・パパ』
村井 僕がその次に、予算的に無理だろうなと思って落としたのは『聖女のミッション』と『サバイバーズ・ギルト』と『病ンデレーション・ラブ!!!』。『サリエリ子』が次点といえば次点なんですけど、これも無理だろうなと思いました。で、「主人公に好感が持てるかどうか」で比較した時に、『リバーサンド・パパ』は比較的にアリかなと。特に好感を持てたのは、主人公がファザコンだっていうところ。そこが、単純に、可愛い。ファザコンの女の子が河原で暮らしてる、というロケーション込みで面白い。全体的に薄味ではありましたけど、そこを買いましたね。『聖女のミッション』も確かに面白いけど、これをこの予算で作ることに、意義はあるのかと。非常に辛い戦いが予想される中、苦労してでもやって良かったと思える何かがあればいいんですけどね。
大工原 ただ、『聖女のミッション』は、低予算でチープにやっても結構面白くなるかもしれないとは思いましたね。それだけに、今のままでは、監督よってかなり出来が左右されるシナリオだろうなと。
高橋 まず、予算のことは「削ればいい」っていう考え方もできますよね。だから企画性、なんですよ。つまり「新人女優をフィーチャーできうる内容を持っているか」。かつ「ミニシアターレベルで上映して、注目されそうかどうか」。果たしてそれは、どういう作品なのかということです。僕は『夢みる瞳』以外にそれはないなと思ったんですけど、あえて3本挙げるとしたら、それはどれなのか。ってことなんですよね……。『リバーサイド・パパ』だと、女子高生が、家出した父親と一緒にホームレス生活を始める、というつかみはあるんですよ。でも彼女というキャラが立ったところで、何をやったかというと、お父さんを現実社会に引き戻すことだった。あと「私はお母さんと同じ人間だ」と。……立たないな、と。
大工原 最後、ちょっと驚きました。お父さんの活力を殺して終わりなんだ、という驚き。
高橋 女子が観て、面白いとは思わない気がするんですよ。女子について肯定的ではないということじゃなくてね。ヒロインの捉え方が非常に、引いた目で見てる感じがするんですよね。これをもし、予算的に成立する枠の中でやるとなれば、ヒロインのあり方を大きく変えないと。ラストも含めて。「お父さんを現実社会に引き戻しました、終わり」じゃないものにしないと企画って立たない気がするんですよ。となると、この企画の根幹が崩れるんですよね。作者がやりたいことではなく、他の人がテコ入れした作品になってしまう。
大工原 そこは書き手にとっては、ラストを変えるだけでは済まない、テーマの根っこに関わるところですからね。
高橋 父親が家出をした、娘はお父さんが大好きだから一緒についていく。そこが冒険の始まりなわけですね。そこはいいとして。その後、いろんな面白いことが起きてほしいんですよ。意外と娘に生活力があった、でもいいんですけど。それでお父さんがどんどんしょんぼりしていって、最後に引導を渡されて連れて帰られる、ではなくて、お母さんと娘が本気でガチに闘うとか、
村井 そうさせたかった気配は感じるんですけどね。でも最終的に、父親のドラマになっちゃったな。タイトルも「パパ」なんですよね。
高橋 そこなんだなあ……僕はあえて梗概を読まずに、ホンを先に読んで、その後に梗概を読んだんですね。梗概の方が、面白そうなんですよ。アユミのドラマとして終止符が打たれたというふうに読める。
大工原 女子高生のヒロインが学校に通いながらホームレス生活を続けていくうちに、だんだんと汚れていったり、日々の実用品に困ったりという、ホームレス生活のシミュレーションとしてはすごくリアルに書けていたんですよ。父親がひとりでやっていた頃は、それなりに楽しく暮らしてきたのに、娘が係ることによって、無理矢理現実の経済の渦に引き戻されていく。生活は豊かになるんだけど、お父さんの元気がなくなっていって、最後は目が死んでしまうという、何とも残酷な話だなあと思ったんですね。
村井 僕はそこはアリだと思って読みましたね。女って恐ろしいな、というオチとして。ただ、アユミについては、もっとファザコン感を強めていった方がいい気がするんですね。入り口として「ホームレスになる」というもは面白いんだけれども、普通の生活を捨ててまでそっちに行くという説得力が、今ひとつ。ただ「お父さんが好きである」っていうことが強烈であれば、そして「自分が母親と同様に父親を縛ってしまっていた」ことに気づいた主人公の気持ちを描ければ、キャラが立つ上に、そこに説得力が乗っかる。そこから組み上げていけば、これとは違うオチが見えてくるかもしれないですよね。
高橋 娘がお父さんを飲み込んじゃう物語ですよね。だから女は怖い、と。それってあんまり新しさがないというか。「強いものは強いのだ」って言われてるだけのような気がして。彼女の中に、お父さんとお母さんの間での揺れ幅があればいいんだけど。結論は、すでに出ている。
村井 そう、自分も、母親と同じである。ということに気づいた時の心象が、一瞬でも描けてると、グッとくる気がしますね
『かぞくの数学』
大工原 『かぞくの数学』も『リバーサイド・パパ』と同じく、家族崩壊をテーマにした物語ですね。ただし、こちらの方がハードボイルドな感じがあった。『リバーサイド・パパ』が考えながら書き進めていったリアル・シミュレーションだとすると、『かぞくの数学』の方はよりフィクション度が高く、世界が広いんですね。その点では『リバーサイド〜』より作者の意識が一歩先に行っている気がしました。
村井 そうですね。この2作は似てるので、比較対象かなと思いました。
高橋 両親の離婚という危機が突如訪れた時に、ヒロインはなんとかして夫婦の絆を取り戻させようとしますよね。それであわてて行動するというのが、相米慎二の『お引越し』に通じるものを感じたんですけど。なぜそうするのかわからないんですよね。『お引越し』はもっと小さい子だったけれども、
村井 そう、僕も読んだ時に、これは中学生じゃないかなあ、と思いました。
高橋 でも設定は、高校生。もういいよ別に。なぜそこでそんなに家族を守ろうとするの?っていうのが、入り口の段階で引っかかって。……っていうヒロインに、今どき、乗るか?っていうのがありましたね。あと、数学で家族をよみがえらせるっていうことが、わかりにくい。
村井 梗概読んだ時に「面白そう!」って思ったんですけどね(笑)。
大工原 そこ、数学を使ったカタルシスを期待しながら読んだんですけど、意外と何にもなかった。
村井 例えば人間関係を数学で測るっていうのは、わかるんですよ。だからそれをちゃんとできてれば、面白くなるかもしれないんだけど、現状、数学の理論も何も出てないじゃないですか。そうした時に、今の稿では難しいなと思いました。ただ3本選ぶということになると、これしかなかったので、これを挙げたわけです。
高橋 例えばこれを出資者に企画として持っていく時に僕らが言えることは「ヒロインの年齢をもうちょっと下げようと思います」「……え、それ『お引越し』ですよね?」と(笑)。「数学についてはもっとアイデアを出させますよ」「……え、出るんですか?」と。
村井 そこですよね(笑)。現状、書いてないということは、書けなかったんだと思うんです。そこに頭を使った形跡があまりない。『ビューティフル・マインド』っていう数学者についての映画がありましたよね。あれだと「ナッシュ均衡」という理論についてだけは、ちゃんと説明してるんですよ。それまでは、需要と供給により「均衡」はなされるのだと思われていたけど、全員が幸せである「均衡」というのが成しうるのだと。つまり人間関係を数学で説明できているんです。それができていれば、何の問題もなかったんだけど。
高橋 そうですね。このコンペにおいて「その点についてはこれからですよね」というのはないんじゃないかと思います。
大工原 同感です。ただ、僕はテンポの良さという点では、『リバーサイド〜』よりもこの作品を推します。関西弁っていう問題については……東京でやれるのかな、これ(笑)。
村井 阪神大震災の話から入ってるから、関西弁である意味が後々出てくるのかと思ったんですけどね。その後東京に引っ越してきててもいいわけだから。
大工原 この作品に感じる会話の小気味よさは、関西弁によるものなんですかね。
村井 僕は関西出身ですけど、これは関西弁じゃなくても成立しますね(笑)。むしろ、そうじゃないとキツいかなと。関西弁で観たい映画の内容ではないんじゃないかなって。
大工原 企画側としては、東京弁で東京を舞台にやってほしいなと思うんですけど。この予算的規模では大阪には行けないので。
高橋 今どきのミニシアターの流行りっぽい映画になりそうな要素を孕んでいるのは『かぞく〜』だと思います。物語の舞台は東京で、言葉は大阪弁で行くという手もありかなと思う。関西の人が多く住んでいる地区があって無理やり全員関西弁でしゃべるとか。
村井 監督次第だと思うんですけど、数式をだーーっと書いてる描写とかが、ポップにできそうな気はしましたね。
『夢みる瞳』
大工原 みんな一推しの『夢みる瞳』についても話しましょうか。
村井 ラストをどうすればいいでしょう、というのはちょっと、ありますけどね。
高橋 それと、100%処女だった人が、味覚がちょっと変わったくらいで妊娠検査薬を買いに行くのか、っていうのがよくわからないところがありました。妊娠したはずがないわけだから。
村井 僕もそこに一瞬ひっかかりました。早いなと。でも、そこはリライトでもう一段階足すこともできるなと思います。
高橋 この子は、どういう子なんですかね。言われたら本当に妊娠検査薬買うのか! ありえないだろ!って思った(笑)。だから途中まではナメて読んでたんです。「また想像妊娠とかなんでしょ!」って思ってたら、普通のオチには持っていかない気なんだこの人(作者)は!って思いましたね。それは、いいぞと。産むって言っちゃって、お母さんはそれを許さないとか、あのへんはグッと来ましたね。で、どうなるんだ!と思ってたら、……まあ、ねえ。っていう(笑)。実際どうしたらいいのかは、現時点ではわからないんですけどね。ただ、そこを模索していくことによって、何か新しいものが見つかるかもしれないという期待感がありますよね。
大工原 小さな直しによってずっと良くなる期待はありますね。また、ヒロインを取り巻く人たちが皆いい。親友・兄の元婚約者・両親ともにかなり魅力的に描けている。
村井 こういう家庭ってありそうだなと思いますよね。「この親にしてこの子あり」っていう家族がうまく書けてる。だからこの子はまだ処女だし真面目だし、ということで好感をもってこの子を追いかけていけるんですよね。でも、やっぱりネックはエンディング。観終わった人の満足感を呼ぶエンディングにしたいんですけど、具体的なアイデアが出てこないなあ……
高橋 そこが難しいですね。
村井 主人公は最後、病院で、死んでいるんですよね、これはたぶん。で、看護婦が「生きてます」って言うのは、赤ん坊のことじゃないかと思うんです。それは、どっちかが生まれ変わったんだと思って。子どもを助けて、自分も死んで、それが赤ん坊として生まれ変わったという意味なのかな……というふうに、一応、理解したんですけど。
大工原 ああ、それは考えなかった。そういう読み方もできますね。
村井 でも、この書き方だとそこがよくわからないんですよ。看護婦が言う「生きてます」の主語も明示されてないので。
大工原 僕は、瞳は病室で血を流しているんだけれども、赤ん坊の実体は瞳の身体からは出てこなくて、出てきたものが公園にいる女の子なのかな、とも思ったんですね。
村井 そっちかあ! つまり、自分が産み落としたものが成長して、
大工原 時空を越えて、公園で有希が抱きしめているという。
村井 なるほど……!
高橋 そうなると、最後に有希が抱きしめる子どもは、奇形であるとか。
村井 それだとわかりやすいですね。大工原さんの説明に近くなる。
高橋 でも、まずは本人に聞くのが先ですよ。こっちからいろいろ出してしまうと、合わせようとしちゃうから。
【まとめ】
大工原 3人とも、自信を持って推せるのは『夢みる瞳』ということですね。
高橋 そうですね。今日来て、やっぱりそういうことなんだって確認しました。たぶんそういう話にしかならないな、と思っていたので。
村井 僕もそんな気がしました。
高橋 あえてあと2本を推すとしたら、まず『かぞく〜』における数学というネタの魅力とか、数学者のキャラクターとか、そういうところに可能性を託すことができると思うんですよ。で、『リバーサイド〜』に関しては、「家出したお父さんと一緒にホームレス生活をする女子高生」が、どうなるのか。っていうところから考えてくれっていうことになるのかな。
村井 僕はさっきも言った通り、一瞬でも娘の揺れ幅を描けていれば『リバーサイド〜』はハジケそうな気がするんですね。その点において考えると、『かぞく〜』に数学のアイデアを期待するよりは、『リバーサイド〜』への期待度が高いかなという感じがします。
大工原 僕は、監督目線で考えると、『かぞく〜』の方が膨らみそうな気がするんですね。演出の視点をどこに置くかによって、娯楽性が増すことはありうると思う。
高橋 『かぞく〜』と『リバーサイド〜』と『夢見る瞳』の3本ということでいいと思いますよ。『夢みる瞳』を僕らは一番推しているけど、「こんな方向性もあるかもしれないですね」ということで、もう2本挙げるという方向で。
【選外の作品について】
高橋 『聖女のミッション』のヒロインは、間違いなく立っているんですよね。ある種の、宗教狂いの人が、あるミッションを神から与えられたと思い込んで実行していくという話。
村井 予算が削れるんだったら、企画としてはもちろんアリだと思いました。
高橋 これを本当に低予算で可能なものにしていく、という作業こそが「アイデア」なんだと思うんですけど、それを、やってないですよね(笑)。
大工原 好きなんですが、作者は企画の枠をあえて無視して、自分のやりたいことを書き切った感じはありますよね。
村井 そこはもちろん、みんな現場の経験値が低いので、できると思って書いちゃっているのかもしれない。
高橋 この、二昔前のVシネアクションみたいな感じは、本人はこういうことがやりたいわけですかね。で、それはもう、古いんですよ。
大工原 そう、問題は「古い」ということですね。どうしても古く感じてしまう。
高橋 ましてや低予算のインディペンデント映画でやる意味は、たぶん、ないんです。それをやりたい女優もあんまりいないと思う。
村井 今やっても、お得感が何もないっていうことですよね。
高橋 こういうコテコテの、今も昔も変わらない味でやってるのは、2時間ドラマなんですけどね。このホンは2時間ドラマとか、レディースコミックとか、そういうものの方が向いている気がする。少なくとも、この作品をやるとしたら、主人公の設定だけ残して、あとは全面的にリライトするしかないと思います。
村井 あと、ごく単純な話として、この役を演じることで、今の女優さんたちにとっておいしいことがあるのかどうかということ。
高橋 そうですね。この作者が作ったキャラクターとは違う何かを付け加えない限り、そういうキャラにはならないよね。Vシネヒロインにすぎない。方向性としては、なくはないと思うんです。純粋培養された人が、啓示を受けたと思い込んで、狂った行動を始めてしまうというのは。
村井 でも「これから売りだそう」という女優がやる役ではないだろうなと思います。あと、クライアントが音楽的に強いということを考えたら『サリエリ子』もアリかなと思ったんですが、楽曲を一から作るっていうのがネックですよね。
大工原 『サリエリ子』が難しいのは、ここにサラッと書かれているそれぞれの楽曲に説得力が無いと、ドラマ自体が成立しないってことなんですね。
高橋 ということを、作者もよくわかっていない感じですよね。『アマデウス』はモーツァルトがいたからできたわけで、そういうレベルの天才作曲家の曲を、この作者は梗概によると、知人の女性作曲家に依頼することを想定して書いている。どんな方だかわからないんですが。
大工原 ライバルに天才が設定されて、それに対抗しようとするヒロインがいるのだから、その違いは楽曲で楽しみたい。となると、かなり実現性のハードルが高くなりますね。
高橋 最初、『サリエリ子』という名前を聞いただけで「おっ!」と一瞬思ったんですが、いくら読み進めても、話が本題へ入っていってくれない感じがあって。それは、まずいと思いました。
大工原 音楽もの、という括りでいうと『アイドルを辞める10日前』も、読み物としてはよく書けていて、結構楽しめました。でも、これも楽曲が最低3曲は欲しいわけで、他にハコの多さ、ライブハウスもいくつか借りる必要があるし、予算の面で実現するのはかなり大変です。
村井 難しいですね。あと、何か一つピンと来なかった。アイドルって今、いろいろと多様化している中で、ここに出てくるキャラクターがすごくステレオタイプで。
大工原 アイドルというより、バンドの人間関係っぽいなとは思いました。
村井 そうですね。バンドを辞める話にしても、何ら不都合はない(笑)。
高橋 この「魁☆乙女」っていうのは、地下アイドルから始まったような人たちなんですか? せりふ読んでると、そういう感じですよね。でも、なんか、すごいメジャーな規模のアイドルみたいにも読めて。
村井 たぶんそのへんの勘がないんだと思うんですよ。
高橋 でも、コンサートをやっている場所は、中規模のライブハウスとかなんでしょう。3つぐらいのアイドル像がブレて、ひとつのアイドル像としての輪郭が見えない。あと、こういうネタをやるんなら、楽屋だけで全部描くとか、そういう選択が必要ですよね。『バードマン』とかはそういうことをやっているわけで。野心的なインディペンデント映画にはそういう工夫が必要なんだけど、これは完全に正攻法のドラマになっちゃってる。
村井 僕が『リバーサイド〜』を推した理由の一つはそこでした。河原のダンボールハウスに少女がいる、という構図。
高橋 『サバイバーズ・ギルト』については、この題材に着目したのは面白いと思いました。修学旅行先で襲撃されて、たった一人だけ生き残ってしまった人。でもその人が実は旅館を抜けだしていて、彼氏が警官の制服をコスプレしていて、それが殺戮のきっかけになってしまって、そこについてもめるんですよね。遺族たちと。つまり描かれるのは“サバイバーズ・ギルト”じゃないんですよ。別の話になってしまっている。
大工原 冒頭の殺戮に、主人公が深く関わっていない。長編を支えうるドラマを、主人公自身が背負えなかった弱さを感じてしまいましたね。
村井 僕も読みながら「もしリライトするとしたら、事件が終わった後からやるよなあ」と思っていたんです。つまり「直せるかもしれない」という前提で読んでいた。でも後半の展開が、もう全く、直しても無理だろうなと思いました。感じとしては、大友克洋さんの『童夢』(83年)のような雰囲気を、もしかしたらやりたいのかなと思ったんですけど。
高橋 団地のロケは、大変ですよね。これも、もうちょっとシチュエーションを限定してくれたら、ドラマにできそうな何かが見えるかもしれないんですけど。本人にとっては「団地」っていうのが「限定」だったんだろうな。
村井 今となっては、そうでしょうね。
高橋 体育館の中で全校集会の最中に起きるドラマとかね。「限定する」というのはそういうことなんですよね。
大工原 でも例えば『聖女のミッション』のように、古典的に巧く書かれたものよりも、『サバイバーズ・ギルト』のように、何がやりたいのかわからないけど話が横滑りして混沌としていくみたいなものの方が、今は受けるのかもしれないと……、やや気にはなりました。
高橋 『病ンデレーション・ラブ!!!』についてはどうでしたか。
村井 キャッチーかな、と思いました。ホメる点があるとしたら「ヤンデレ」というものをつかんだというのがキャッチーだし、いわゆる今の若い世代で「ヤンデレ」に惹かれる層が観る可能性はあるなと。ただ、問題は「ヤンデレ」を病気にしちゃったことが、戦略的な失敗だと思うんですよ。「ヤンデレは素敵だ!」というところまで行ければ、今の若い人たちも「おお、俺も病んでるけどいいのか!」っていうことになると思う。ターゲットとして「神聖かまってちゃん」とか「SEKAI NO OWARI」とか、昔で言えば椎名林檎とかを聞いてた層を捉えうる企画性はあると思う。「ヤンデレ」に着目した時点で。でもそこの部分をSFにしてしまって、そこから先、心の問題には行かなかったので。
高橋 「ヤンデレ」という病が、新型のウィルスによって起こるものだという設定ですよね。そしてそれが凶暴化する。
村井 病みすぎて狂暴化。そこからただのゾンビものになっていくんですよね。
高橋 何がしたかったのか、わからなくて。「主な参考引用文献」に芥川龍之介の『偸盗』を挙げているんですよね。ひとりの女性をめぐって兄弟が殺しあう話。盗賊の一味ですごく淫蕩な美女が、自分をめぐって兄弟が争うように仕向けるという。このホンは、お兄ちゃんをめぐって、妹と他の女の子が争って殺しあいになる。単にそこを参考にしたのかな。
村井 ただ、現代性のあるタイトルという意味では、他にないなと。もっとこういう感覚で書いてくれる人が多ければ、この手の作品でイケるものがでてきたかもしれないですね。
【総括】
高橋 トータルな印象としては、今回、どうでしたか?
村井 僕はこの8本を読んで、テンプレな人物像というものが印象に残ってしまいましたね。テンプレな人物像とは、映画やドラマの中にしかいないような人ね。会話がお約束だけで書かれているみたいで、生な感じがしない。これは企画以前の話になっちゃいますが。
高橋 「企画開発」ということでいうと、企画がブレちゃうんですよね。『リバーサイド〜』で言えば、ヒロインじゃなくてお父さんの話になっちゃってるとか。『サリエリ子』で言うと、「サリエリ」というつかみはOKなのに、サリエリの話かと思うと違う方向に行っちゃったりとか。『サバイバーズ・ギルト』もね。サバイバーズ・ギルトなのね?と思ったら、殺戮を引き起こした原因についての話になっていく。『かぞくの数学』も、家族を何とか元に戻さなきゃという動機付けの弱さを、数学で補強するのかと思ったらそうでもないし。結局『夢みる瞳』だけが一貫してるんですよね。この、企画のブレなさを、商業映画をやっている人は普通に保っているんですよ。そこが、まだみんな、わからないんですね。脚本の人も、フィクションの人も。
全体として思ったのは、エンターティンメントの企画を書くことがまだまだハードルが高いんだなと。やはりセンスで書いてくる人の方が持ち味を出しやすいので、僕たちの評価もついそっちに行く。でも、僕たちは決して作家性の強いシナリオを選ぼうとしてるわけではない。センスで書いてる人は、そのセンスが判る人だけにしか伝わらないという壁にぶち当たる。そこを乗り越えるのが、エンターティンメントの骨法なのであって、パターンをどれだけ知ってるかですよね。新しいエンターティンメントを発信しようとしている映画美学校にとって、大きな課題が見えてきたなと感じました。
村井 もう一つ言っておくと、「この主人公を観たい!」っていう着地をしていないんですよね。今回の企画を理解すれば、女優さんがこの役をやることで何か輝かせてほしいのに、主人公に共感できない、乗っかっていけないものが多かった気がします。僕が選んだ3本は、まだそれがあるんです。この主人公を、観たいかどうか。
大工原 僕もそうでした。ヒロインを実写で輝かせる可能性のあるものが最終的に残ったかなと。22本全部を読んでいるときは、結構レベルが高く、読ませるシナリオが多いなと半ばホッとしながら読んでいたんです。でも、いざ読み終わって、この中から低予算のインディーズとして勝負を賭けられるホンはどれかと考えた時に、選べるものは少なかった。やはり映画化が前提だとシビアに企画力が問われてくるんですね。その中でこの三本は、特に『夢みる瞳』には、映画にしてこのヒロインを見てみたいと、ワクワクさせてくれるものがあったということだと思います。
(2015/05/23)
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