「映画は”使命”なのです」テオ・アンゲロプロス
私は様々な国でマスター・クラスを行ってきました。そこで多くの映画を作ろうとしている若者たちと出会いましたが、彼らからは私たちが映画を始めようとしていた頃にあった熱意が感じられません。彼らはむしろ、仕事をするために映画を作ろうと思っているような気がしました。映画は仕事ではありません。少なくとも私がこうあるべきだと思っている映画、こうあり得ると思っている映画は、仕事、職業ではなく、“使命”なのです。
世界を良くしていきたい思う宣教師たちは今何人いるでしょうか? TVや商業的な映画が語る言語とは違う言語を語りたいと思っている人々は何人いるでしょうか? 彼らはおそらく少数派でしょう。しかし、様々な時代において、少数派が小さな変化、大きな変化をもたらしたことがあります。
ですから、私は今の時代はひとつの移行期にあると思いたいと思います。今までに存在したものと来たるべきものとの中間の移行期であって、待機している時代だと考えたいと思うのです。待っているのは、より良いもの、より本当のもの、真実です。それを来させようとするのは、あなたたちだと思います。私たちの世代はいま通り過ぎて行っています。皆さんは自分に対して疑問提起をしなければなりません。「映画とはなにか?」「映画に何を期待するのか?」「なぜ映画を作りたいのか?」それを自分自身に対して問いかけるべきでしょう。
もうひとつ重要な疑問があります。皆さんが自分に問いかけなければならないこと。「果たして、映画は私を望んでくれているか?」「映画は私を欲してくれているか?」という疑問です。おそらく、ひょっとすると、世界を変えるために、自分たちが何か小さな寄与をすることができる。そうした可能性が生まれてくるかと思います。
(2005年1月26日「特別講義」より)
※本講義は、アンゲロプロス監督が『エレニの旅』(フランス映画社配給)の日本公開のため来日なさったことで実現いたしました。なお、渡辺進也氏の取材・構成による更に詳しい講義のレポートをnobodyのウェブサイトで読むことができます。http://www.nobodymag.com/interview/theo/theo1.html