「方法論の二者選択を突きつけられる感覚を知っておいて欲しい」青山真治
『ラルジャン』(1983 ロベール・ブレッソン監督)の極めて周到な編集、次から次へと省略していく方法と、『現金に手を出すな』(1954 ジャック・ベッケル監督)のほとんど省略しない方法。どちらが良いかを言いたくてこの講義をしているわけではないです。どちらでも良いです。どちらもありで、どちらも映画なんです。ただ、題材にとって何が適切なのか、題材が何を要求しているのかを真剣に考えると、こういう両極端の事が起こってしまうわけです。一方でまた、題材を選ぶのも彼らの仕事であり、彼らの生理でもあるわけで、そうなると、この題材を選ぶ生理が、この技法、この省略法、この話法を選んでいると言っていい気がします。つまりそれはそれぞれの人生の問題なのではないか。
僕が初めて『現金に手を出すな』を80年代の中頃にアテネ・フランセで見た時に、ちょうど『ラルジャン』が公開されていました。その当時、僕自身、映画作家になろうというつもりはさらさらなかったんですけれども、この両方を見た時に、自分が映画を作るとして、どちらかを選ばなきゃいけないとしたら、どちらを選ぶかという風に突きつけられた感があったんですね。今、皆さんは映画を作り始めるその渦中にいるわけで、その時に、いわば人生の問題として、こういう方法論の二者選択を突きつけられる感覚を知っておいて欲しくて、この講義をやっているわけです。
(2006年3月18日「映画表現論」の講義より)