2017年7月31日締切の「プロットコンペティション2017」の応募総数は24本でした。

各選考者による選考結果・選評は以下となります。

<プロットコンペティション2017 選考結果(選考者五十音順)>

【小林剛プロデューサー選出】
篠塚智子『マッチのプライド』(第1期高等科後期修了生

【齋見泰正プロデューサー選出】
久間木達朗『嘘とかマコト』(第4期高等科後期修了生

【孫家邦プロデューサー選出】
選出作品なし

 

ただし、各作品ともにすぐに実現可能なものではない、という条件付きでの選出です。
各作品の作者は、これから選出プロデューサーと顔合わせを行い、具体化を目指して話を進めていきます。

 

各選考者による選評

【小林剛プロデューサー

「マッチのプライド」は主人公・町子とそのトラウマの相手・藤沼の異様な関係性がとても良かった。相手を傷つける、相手から傷つけられるという単純な構図が、やがて共依存に陥っていく様は異形の恋愛モノとしてとても興味を覚えた。まさしく“ラブバトル”。一般的な映画にはなり得ないが、巷に溢れる純愛映画にアンチを叩きつけるジャンル恋愛映画として面白いと思ったので、今回は選ばせていただいた。ただ、ラストは淡白過ぎて物足りなく、ストーリーバランスと共にもう少し詰めていけばもっと面白くなると感じた。その他に気になった作品は「Apoc.」と「D・O・G」。前者は伝奇ホラーとしてラストのカタストロフまで一気に読ませ、小気味よい。妖怪・件と地名の九段を引っかけた剛腕の展開もぎりぎりはまり、今回の作品群でジャンル映画としての完成度は一番高かったように思う。やや類型的な描写が多く、その点は惜しまれた。後者は、スタートは献身的だったボランティアが妄執を経てシリアルキラーになっていくという着眼が良い。良い意味でのB級良作の可能性を感じた。本作も結末が弱く、もうひとひねり展開があっても良かったように思う。今回、全体として商業映画への意識が書き手側に高まった印象を受けた。が、映画の出口は様々で、自主で成立していく良作も多い昨今、どちらに向けたものかの意識を明確に持って書くのもベクトルが分かりやすくて良いのではないかと思った。最後に苦言として、登場人物の名前が度々間違われるなど、推敲不足のものが多く、その時点で作品に愛がないのかと思ってしまい大変残念だった。

【齋見泰正プロデューサー

今回は皆さんのプロットを読ませていただきありがとうございました。それぞれに思いのこもった力作だったと思います。 今回は基本的にプロット段階でのコンペという事でアイデア、企画性を競う部分も大きいかと思いますが、応募して下さった皆さんは脚本家を目指してらっしゃっているので、長い目で見て、脚本家として今後一緒にお仕事をさせて頂きたいと思える方に出会えないかという観点も含め検討させて頂きました。 全体的に感じた事として、皆さんも今の時代だからこその物語を模索し提案して下さったと思いますが、それ故にテーマの選択や切り口、登場するキャラクターの設定などに関して、他の方の作品と重なっているものが多かったと思います。また力作揃いな分、エピソードや起伏のポイントが若干過剰に詰め込んである印象も持ちました。  印象に残ったプロットに触れますと、松島公祐さんの『カムイキキリ』は明確なビジョンのもと、周到に準備されたお手本のようなプロットだと思います。後半の展開がやや既視感のあるものだったので、アイデアを更に練る事ができたら凄い娯楽作ができると思います。梅村このみさんの『ピノキオの鼻』はどこかマジックリアリズム的な雰囲気が感じられ、シナリオの形でもっと深く読んでみたいと思いました。篠塚智子さんの『マッチのプライド』はシリアスに描きがちな話をおっとりとした優しさで包んでいて、純情で不器用な人たちしか出てこないのに、エロティックな空気が満ちていて面白かったです。 その中で久間木達朗さんの『嘘とかマコト』を選ばせていただいたのは、他の応募作にも見受けられるひねった設定でありながら、物語としての必然性があるものとして自然に機能しており、シンプルかつ飄々とした筆致で、プロットの時点で既に生き生きとしているのがとても魅力的でした。

【孫家邦プロデューサー
この企みに参加させて頂くことが決まってから、一本のプロットも読んでいない間、あなたたちの先生、高橋洋さんことを考えていた。いや、考えていた、というより、ボンヤリ、想っていたって感じ。高橋さんと僕は随分、お互い、遠いところで映画の仕事をしているのだが、実はその距離のまん中に大和屋さんがいる。そのことにいつも何か特別な気持ちがついて回る。


大和屋竺。


下に、大和屋さんが、最晩年、撮影する予定だった作品のために書いたマニフェストを記す。


純愛のために

大和屋竺



純愛は、意外なスピードで実現にむかっている。

ニッポン映画では、それは不可能だと見られていたのだ。

○○主義と××主義の相克によって、

△△主義が、やっとのことで達成される。

というふうに、うっとうしい頭で、誰もが思っていた。

しかし、そんなことはないのだ。

世界的な規模で、不純な愛はほろびてゆく。

さいしょの……初原の愛――純愛が、いっきに実現する。

これだけで十分だ。何をか云わんや、なのだ。


僕らは、映画の不純を見続けてきた。

信じられないような、捏造の連続だった。

幻想を犠牲にし、学説の肥えだめに投げこみ、

哀切の泣き声で、良心やら、文芸やらに、

おべっかをつかっていたのだ。

おためごかしもいゝかげんにしてくれ、と僕は云いたい。

映画は、もっとも純粋な地上のおどろきなのだ。


サイがパンパスを走る――そのようにまっとうなおどろきだ。

僕は、そのサイのように走りたい。

そのような演出は、ほんとうにありうるだろうか?

そのようなスピードは、ありうるのだろうか?

ありうる、と僕は答えたい。


僕は眼をみひらいて、朝やけのパンパスの、さわやかな匂いを嗅ぎたい。

この暴走を、誰がとめられるだろうか!?


―『朝日のようにさわやかに』製作準備に向けてのマニフェストより―


大和屋竺(やまとやあつし 1937〜1993 映画監督 脚本家)


大和屋さんは、人間のことをとんと判っていないのに、人間の秘密を知っていた。
荒戸源次郎は、遠くを見渡して素敵なものを見ているのに、足元は暗くて全く見えていない「灯台」のような人だよ、と大和屋さんのことを評した。
高橋さんはそんな「灯台」をまじめに考えた。秘密を探ろうとしたのだろう。
僕は、考えなかった。ただ好きで好きで、小犬のようにじゃれついていただけだ。もちろん人間の秘密については未だにわからない。

“そんな僕なので”と前置きをしたうえでこの度のプロットコンペティション審査について結論を申し上げる。
ともに商業映画成立のために作業を始めたい、と思ったプロット、なし。
しかし。

僕は、それぞれのプロットを読みだして意外にも随分と楽しかったのだ。
朝焼けのパンパスの匂いがしたような気がした。
ような気がした、だけかもしれないが、気がしたのだ。
高橋さんも僕も、大和屋さんのあの頃の年になった。
高橋さんは、大和屋さんの秘密を少しだけ皆さんに伝えているのだな、と思った。
容貌怪異なおはなしの群れは、まだ朝ぼらけの中にいるのだろう、いささか寝ぼけているのか、まどろんでいるのか。
ゆっくりと覚醒すればいいじゃないかと思った。残念ながらニッポン映画は未だ信じられないような不純の中にいるのだから。
選んだ作品がなかったのは上のような理由も多少ある。察して頂きたい。

いつかパンパスを駆けるかもしれぬと胸の奥がトクンと鳴ったプロットを順不同に列記する。

神さま、このロリコンたちを殺してください!/黒船コワい/春雨の曲(仮)/D・O・G/マッチのプライド/ピノキオの鼻/テロの渦/ストリート・キッチン


桃子の乗った車が発進し、犬たちが後を追う。 時生も必死で追うが、犬の足に追いつけるはずもなく、「犬にしてください」と天に祈る。 時生を独り残して、桃子の車と犬たちが大地の彼方へと小さくなっていく。



大和屋さん、笑っただろうな。

 

 

 

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