山田達也さん
校内に彼が現れると、ああ映画が始まる、と思う。撮影や照明など、技術実習系授業のキーパーソン、山田達也。学校外でも現役カメラマンとして活躍する彼に聞いた。
“自分”と“映画”はつながっている
山田さんは、まず第1期の実習授業に関わられたんですね
授業のアシスタントというような立場でした。僕はずっと商業映画で仕事をしてきたから、映画美学校で初めて自主映画の現場にふれて、強烈な印象を受けましたね。学校が居を構えていたビルの外景の、デイシーンを撮りたいのだと、夜になってから生徒たちに言われて(笑)。僕が「それは無理だよ」と言っても、当時はみんな勢いが良かったから「撮れないなんて、プロとして恥ずかしくないんですか!」って。「恥ずかしくない!」って言ったんですけど(笑)。みんな、気持ちが強かったんですよね。自分には才能があるんだ、明日の朝起きたら俺はスピルバーグのようになっているんだ!っていうような(笑)、そのバイタリティはすごかったです。今も清水(崇)さん古澤(健)さん始め1期生が映画監督としてキャリアを重ねているのは、そのあたりが原動力なのかもしれません。
それから6年を経て、第7期で正式な講師職を任されて
すごく悩みました。僕は技術を、現場で、身体で覚えてきたタイプなので。僕が体得してきたことを、みんなにどう伝えたらいいのかがわからなかった。最初はレジメを作って、言葉にして伝えようとしたけど、どうもうまく伝わらない。だからちょっとずつ、授業のスタイルを変えていきました。実際に身体を動かしながら、みんなで機材に触ってみる。そこから、いろいろと面白くなってきたような気がしますね。筒井武文さんもホームページでおっしゃっていますが、映画を作るために技術が必要なのではなく、技術があるから、それを使って映画を撮りたくなるんですよ。最初は引き出しが空っぽのままで映画を作ろうとするんだけど、その引き出しの中身が1つでも2つでも増えてくると、やりたいことや、やれることが広がっていくんです。その面白さに気づいてしまえば、「もっと引き出しの中身を増やしたい」「もっと深めたい」と思うようになっていくんですよ。
どういう時に、教える喜びを感じますか?
みんなが、遅刻しないで来た時(笑)。あと、機材を丁寧に掃除して、返却してくれた時とか。そういうことって、ものづくりの原点だと思うんですよ。例えば、初めて撮影で使わせていただく家へ伺う時。こちらがちゃんとした配慮のもとに行動すれば、その家の人はたぶん、次に別の撮影クルーが訪れたら、受け入れますよね。もちろん、その逆もあるかもしれない。つまり僕らが挨拶や集合時間といった、人としての基本をきちっと押さえることというのは、映画を作ろうとしている人全体の問題でもあるんですよね。すべての行為が、映画とつながっている。そのつながり感を、ここでの授業を通して、つかんでくれたらうれしいと思います。
違う明日がやって来る
お話を聞いていると「教える→教わる」といった構図とは違いそうな気がします
一緒に現場をやることで、わかりあえる部分が大きいですね。映画美学校は「講師」と呼ばれている人も「受講生」と呼ばれている人も、ごっちゃになって何かを作っていく場なんだと思います。もし失敗したら、次はどうやったらうまくいくのかを、現場で互いに考え合う。そうやって生まれた疑問を、解決できるのもまた、現場でしかないんですよ。
それは例えば、高等科の「コラボ」(※講師の監督作品に、技術スタッフとして参加するカリキュラム)で起きることですか。
そうですね。それまで「映画監督になりたい」と思っていたはずの人たちが「あれ、照明って面白いな」「録音をもっとやってみたい」って思うようになっていく。身を持って技術スタッフを体験してみることで、映画の面白みが幅広くなるのと同時に、人生の何かをあきらめるんでしょうね(笑)。スピルバーグみたいな明日は来ないけど、思ってたのとは違った明日が来た!という。だから修了生には、いろんな実感を持ってもらいたいなと思います。道は、いくつもあるんだと。映画とは、監督だけのものではないんだと。
それが、映画美学校で得られる実感
それともうひとつ、「何があってもこいつは絶対力になってくれる!」と思える人間を1人でも見つけられれば、この学校に入った価値は十分あると思います。最初はお互い知らない者同士で、探りあいながらやっているけど、日を重ねていくにつれて、当初「とっつきづらいな……」と思っていた奴が実はすごい理解者だってことがわかってきたりするんですよ。特に実習では時間や物理的に追い詰められるから、人の本性が見えやすいんです(笑)。実際、修了生たちを見ていても、そういう仲間は長く続いていくし、今もいい作品を作り続けている。そういう相手に、ぜひ出会ってほしいと思います。
では最後に、山田さんが今も映画美学校に関わり続けている理由を教えてください
そうですね……大学や専門学校みたいに、ある程度限られた年代の生徒しか入ってこない学校だったら、こうはなっていなかった気がしますね。映画美学校には学生も社会人も集まってきますから、平成生まれから、限りなく僕と年齢の近い人まで、様々な経験値を持った人が顔を揃えるわけです。そういう人たちと混ざりあいながら現場に立つことが、今も刺激的だし、楽しいなあと思いますね。「楽しい現場」というのは、みんなが終始にこにこしていることではないんですよ。寝不足で汗だくで駆けずり回って、ボロボロになった先に、なんとも言えない「やった感」が訪れるんですよね。「よし、明日もがんばるぞ」って思ってしまう。そこにハマってしまうと、人は、映画の現場から離れられなくなっていくんだろうなと思います。
(取材・文:小川志津子)