佐藤真(映画作家)

事実はそもそもフィクションを内包している。たとえ、無垢の事実がそっくり映像に収まったとしても、それを再構築したとたんにフィクションになる。これが、ドキュメンタリー・コースの基本的立場である。
ドキュメンタリー映画の界隈にまとわりつく、教育主義や運動論、精神主義の払拭を橋頭堡にして、ジャンル分け自体を無効にする、ドキュメンタリーの、映画としてのあらゆる可能性に分け入っていこう。フィクションとドキュメンタリーの境界線の波間に揺れ動く映像作家と一緒に、作品批評と実作を通して、その無限の可能性を考えていきたい。その結果は、私的な小宇宙からバーチャルなリアリティをもつメディア界まで、大きな振れ幅をもつだろう。ただその方法論的な可能性も実際は真暗闇の大海原を小舟で漕ぎ出したような暗中模索の中で、映像表現そのものを問い直していくことから始めるしかない。(1999年3月)

映画美学校ドキュメンタリー・コースの主任講師として、次世代の映画作家を志す後進の指導に取り組んでこられた佐藤真監督は2007年9月4日に急逝されました。日本を代表するドキュメンタリー映画作家であり、熱心な指導者でもあった佐藤監督の不在は、到底埋められるものではありませんが、ドキュメンタリーとフィクション両コースの並立という映画美学校開講以来の方針を貫くべく、これまで佐藤監督とともにドキュメンタリー・コースを支えて下さった講師の方々、すなわち「フィクションとドキュメンタリーの境界線の波間に揺れ動く映像作家」たちを中心とした集団指導体制で継続いたします。(映画美学校事務局)